第9話
結局、両親の言うことが正しく、働きに行かざるを得なかった。
仕方なく、企業の面接に行ったが、どこも断られた。
自分も本当は行きたくなかった。
ある日、母はたまりかねたように言った。
「アルバイトでも良いからどこかへ働きに行って」
地元の工場でアルバイトとして働き始めた。
オフィスで使う事務用機器の部品を流れ作業で、言われた通りに組み立てるのが仕事だった。
毎日同じことの繰り返しで、でも始めは毎日楽しかった。
そのうち、嫌気が差してきてた。
始めはみんな優しかった。
そのうち社員の人は、私が少しでも失敗すると怒り散らすようになった。
少しコンベヤーの流れを悪くしただけでも怒鳴りつけられた。
ちょっとした部品を壊すとただでは済まなかった。
いつも切羽詰った気持ちで仕事をしなければならなかった。
上からの指示で本来なら不良になるべき部品を、社内での検査の基準を緩めて良品として出荷してしまうこともよくあった。
それも私にとっては耐え難いことだった。
完成品を受け取った人は問題なく使い続けることが出来るのだろうか。
でも、私の安っぽい良心に、一体どのくらいの値打ちがあるのだろう。
同時にこのままではいけないと思い始めた。
早くアルバイトではなくちゃんとした仕事につかなければならない。
いつまでもこんなことをしていて何になるのだろう。
焦り始めた。
ある日、決意した。
私は普通の人の、普段の生活で役立つ物に一生関わっていきたい。
それは住宅だ。
一から弟子入りして大工になろう。
両親にもそう宣言した。
両親は喜んでくれた。
だが、その決意は次の日には覆された。
私が求めていたものは絶対そんなことではない。
それに大学までずっと運動部に所属したことがなかった私は、体力にも自信が無かった。
それを話すと両親とも失望した様子だった。
またある日思い付いた。
ラーメン屋になろう。
おいしいラーメンを作って、食べた人を感動させたい。
だが、また次の日には嫌になった。
それからも次々にやりたいことは出てきた。
農家、職人、料理人など。
だが、いずれもすぐに覆された。
毎日その繰り返しだった。
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