象牙の塔
第7話
そのあとふと思い立って、私がよく買い物に行った京都駅前に行こうと誘った。
そして、再び京都駅に向かった。
戸島も一緒に。
京都の駅ビルの屋上から見下ろす街並みはすごく懐かしかった。
そして、私が以前見ていたものよりもきれいに見えた。
そのあと、用事があって駅前にある大きな電器店に行った。
それから、京都タワーに始めて登った。
京都の名所を一度に見ることが出来た。
中学のとき、修学旅行で京都に来たことがあった。
そのとき色んな所へ行ったことを思い出した。
以前付き合っていた彼女とは一度、清水寺に行ったくらいだ。
在学中には名所らしい所には、そう言えば行っていない。
そこからの景色は見事で美しかった。
でもそれは、私が失ってきた時間の重さであるような気がした。
そのとき私は、ふと気付いた。
背中がゾクゾクするような感覚を覚えた。
私は今、こうして京都の街を上から見下ろしている。
実学院のキャンパスにいた頃、私は世の中をどう見ていたのだろう。
街を見下ろす丘の上にある実学院の学び舎で、私は一体何を考えていたのだろう。
「朱に交われば赤くなる」、「ミイラ取りがミイラになる」と言うのは、ある意味においては実は正しい流れだ。
周りの人間を変えるためには、まずは自分が変わらなければならない。
例え相手が間違っていても。
いくら理論上正しいことであっても、周りから受け入れられなければ、実際の社会では絶対に通用しない。
それでもミイラを回収することが周りの人にとっても必要なことで、プロのミイラ取りにならんと欲すれば、右半身だけミイラに成りながらでも、見事にミイラを抱えて出てこなければならない。
にもかかわらず当時の私は、自分がミイラに成ることを始めから完全に拒否していた。
見た目だけ立派な象牙の塔にこもり、外側にいる人々を見下していた。
外側にいる人たちのことは全然理解しようともしなかった。
これまでの人生における失敗は、自分のおごりと慢心・思い上がりが招いた致命的な過ちであった。
京都タワーを出ると、戸島と別れてホテルに入った。
テレビをつけると、春の高校野球の結果がニュースで流れていた。
ちょうどこの日から高校野球が始まった。
そう言えば私が入学した年の今頃、実学院大学付属京都高校が春の甲子園で優勝した。
その当時のエースは実学院大学を卒業して、プロ野球のチームでエースとして活躍している。
私が入学した年にプロ入りした選手は、何人か既にFA権を取得した。
そして、彼らが好きな球団に移った。
私はと言えば、今やっと大学卒業を迎えた。
行きたい所には結局行けなかった。
あとは明日の卒業式に向けて早めに寝た。
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