第5話
9月の終わりになり後期の授業が始まった。
インターンシップを途中で投げ出したことを先生から叱られた。
私は自分がマスコミに行けないことに失望していた。
それでも、今まで以上に必死に勉強するよう努めた。
これまで通りでは許されないと思った。
だが、私に大きな異変が起きた。
突然、文章が書けなくなったのだ。
気が付けば、この文面を見たら編集長は何と言うだろうと考えながら書いていた。
私はそんな自分に強烈な不快感を持った。
「どんなに正しいことでも、私にそれを言う資格はない」
そう思うと、書くことを思い付きはしても筆が止まってしまう。
書いたとしても、思わず消してしまった。
いつまで経っても仕上がらなくなった。
「社会の問題を解決すると言いながら、自分の問題も解決出来ないとは情けない」
これまで、考えないようにしていたことが考えずにいられなくなった。
自分の駄目な所について。
「私はこれまで周りの人間は腐りきった奴ばかりだと信じていた。
だが、腐敗しきっているのはむしろ自分の方だった」
「自分は人間として駄目だから仕事が出来ないんだ」
それしか考えなくなった。
大学ではレポートも、講義によっては最後に書く感想も、テストも、全て文章で書かなくてはならない。
これでは単位が取れないことは確実だった。
自分はものすごく立派な人間だと思い込んでいたが、一方で自分は最低な人間だと何となく思っていた。
自分は立派な人間だという考え方は崩れ去り、自分は最低な人間であるということにはしっかりとした根拠が出来てしまった。
根拠の無い自信が無くなり、代わりに裏付けがしっかりした不安が植えつけられてしまった。
自分は人間として通用しないのだという不安が。
あのお説教以来、すっかり負い目やトラウマが植え付けられてしまった。
入れ墨のように。
入れ墨は元々タツゥーのようなファッションではなく、罪を犯した人に彫るものだった。
一目でその人が罪人であることが分かるように。
入れ墨は一旦彫ると一生消えることはない。
私の心にも入れ墨のように罪悪感がしっかりと焼付けられてしまった。
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