使命? そんなの全部無視して俺は引きこもる

ねこ沢ふたよ@書籍発売中

あの夢を見たのは、これで9回目だった。

あの夢を見たのは、これで9回目だった。


「ほんっっっと、いい加減にしてよ! なんで? 名声も美女も思いのままなのよ? なんで動かないの?」


 本日も俺の夢に現れたのは、美人の女神。

 一番最初に見た時には、神々しい雰囲気をまとって「あなたには使命があります……」なんて、話しかけてきたものだった。


 だが、「却下」と俺が、全拒否した結果、あんな風に神々しさのカケラもなくなってしまったのだ。


「何度も言っているでしょ? 神が定めた運命に対して、拒否権はないの」

「却下だ」

「却下できないの。ほら、能力には目覚めているし、怪物は街を徘徊しているでしょ? 貴方の大切な人が、食われちゃったらどうするの?」

「あいにく、人生の始まりが孤独モードで、大切さな人とやらに心当たりはないんだわ。せっかくもらった能力で、孤島を快適なリゾートにした。人類の未来なんて知らん」

「ええっ! それじゃあ、世界滅んじゃうじゃん……」


 女神が、ガックリと肩を落とす。

 どうしよう。どこで間違えたんだろう……。

 女神がハラハラと泣き出すが、泣き落としなんかに屈するつもりはない。


「そんな子に育てたつもりはありません!」

「お前は、俺のオカンか! 知らん」


 女神に育てられた覚えはない。

 なぜ他所の英雄とやらは、見ず知らずの女神の頼みを聞いて世界を守るのか。

 意味が分からない。


 世界が滅んでも、俺が安全ならば何も困らない。

 栄誉も美女も、要らない。

 別にそういう欲望は強いほうではない。


「あのさぁ、普通は、愛する人を守るため、唸るぜ俺の拳、必殺技だ! やぁ! な感じになるわけ。地球の平和を守るため、行け行けゴーゴー、男なら! ってなるわけ」

「どこの昭和ヒーローだよ。ならない。なる必然は、かけらもない」

「そうなの? いつからそんな……ちょっと前は、そんなだったのに……」


 この女神、古すぎる。価値観がやばい。

 なるほど、何度夢に現れて説得されても全く俺の心に響かないのは、価値観が古すぎるのだ。


「じゃあ……しらけどりとか、変なおじさんとか、あの辺も古いの?」

「な? は? 変なおじさんは、辛うじて聞いたことあるけれど、しらけどりってなんだよ?」

「あんなに流行っていたのに。ラッパズボンもみんな履いていないし、おかしいと思ったのよ」

「ら? ラッパ?」


 おいおい。この女神、見た目十五、六歳くらいだが、中身七十歳くらいじゃないか?


「月月火水木金金、トントンとんからりの隣り組」

「本格的に何を言っているのか分からなくなってきたな、女神、お前ついに壊れたか?」

「だって…何言っても響かないんだもの。何か思いつくものを言うしかないじゃない。困るのよ、人類が滅んじゃ。信仰してくれないと、神様だって消えちゃうもの」

「いや、そんなの。神様が消えるかどうかなんて、別に俺に関係ないし。いい加減に諦めてくれ」


 九回目の説得も無駄に終わって、女神は帰っていった。

 目が覚めた俺は、やれやれと伸びをして起き上がる。

 

「おはようございます」


 俺にモニター越しに声をかけてきたのは、「怪物」だ。

 黒い瞳、三角の耳、艶やかな毛皮。裂けた口から白い尖った歯が見える。


 可愛い。最高のケモだ。

 この可愛いケモケモ達を滅す? いや、ありえんだろう。


「今日も頑張ってくるのか?」

「はい! 世界をこの手に掌握するため、頑張ります! 神様!」


 人間を統べた女神は、人類が滅べば消え去るだろう。

 俺は、このケモケモ世界で神となり、モフモフを鑑賞するのだ。


 ケモナーとして最高の人生を送るのだ。

 モフモフこそ正義、世界に溢れるべきなのだ。

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