第2話

 男には、人に言えない過去がある。

 決してその手を下したわけではないのだが、一人の尊い命を奪ったのだ。

 誰もが男に「貴方のせいではない」と言うのだが、男にはとてもとてもそうは思えない。

 あの日目にした光景を、今でも鮮明に思い浮かべることができる。

 愉悦に小さく震える唇こそが、男の罪の証だろう。


「あわてんぼうの サンタクロース」


 調子外れの歌を響かせ、男は雪の中をゆっくりと歩いていた。

 インクを繰り返し乱雑にぶちまけたような、斑模様の深紅のコートを翻す。

 季節外れの水気の多い雪が、男の金糸をしっとりと重く湿らせていく。


「アクセント? いやいや、クレッシェンド!」

「ぃ、あ゛ぁ……っ」


 何の気なしに男がすれ違いざまに振り下ろした鈍色は深々と肉を抉り、驚愕に絞られた奏者の喉から悲痛な叫びが上がった。


「クリスマスまえに やってきた」


 男が奏者を視認した時、奏者は何やらおかしなものを見るように目を見開いていた。

 男は、はて、と首を傾げる。

 それから自身の体を隅から隅まで確認し、更に首を傾げた。

 そしてぽんと手を打って、腹を抱え、これでもかと大きな笑い声を響かせた。


「私としたことが! クリスマスはもう過ぎてしまっているじゃないか!」

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