第40話 絶望の地

「それじゃあ、行ってきます。」


 早朝、朝の4時半まだ太陽は昇っていないため、扉を開けると街灯の光と、迎えに来てくれたメリサさんの車のライトだけが道を照らしていた。空には、満天の星空。なぜか、いつもよりも輝いて見えるのは気のせいだろうか?


「「いってらっしゃい。」」


 今日は、父も母も朝早くから起きて出迎えてくれる。VTuberとして、活動していたときは両親との関わりが薄くなってしまったのような寂しさがあった。そのため、改めて2人と顔を合わせるのは久しぶりな気がする。


 しっかりと2人の返事を受け止め、私はメリサさんの車に乗り込んだ。シートベルトをしっかりと着けると、窓を開けて叫んだ。朝の早朝であることも忘れて。


「全力で、頑張ってきます!!」


 ***


 高速道路を使い4時間後。八時になり朝の涼しい空気も暖かくなってきた頃。私たちはついに、ダンジョン・ロイに到着した。


 このダンジョンの辺りは、安全のため人が住めない危険地帯となっている。世界に突如現れたもの、それがダンジョン。そのため、このあたりの地域には、何年も前の街並みがそのまま取り残されていた。さびれてしまった、シャッター。営業していたのだろうスーパーマーケット。そのまま道に放置された、ママチャリ。


 このまわりだけ時間が止まってしまったようだ。


「結愛ちゃん。大丈夫? 車に酔っちゃった?」


「大丈夫です。ありがとうございます。メリサさん。朝から、迎えに来てくれて。」


「当たり前だよ〜。結愛ちゃんという、先輩のお願いだからね。」


 彼女は、私の肩に自分の肩を勢いよくぶつけた。勇気を半分もらったような、気がして今までの暗い、さみしい気分が吹き飛んだ……気がする。【病は気から】という、ことわざもあるんだ。病じゃなくても、気分がマイナスだと悪いことがある。それなら、前を見ていこう。


 後ろから、そろそろ全員の参加者が集合したので、集まるように指示を出す人の声がする。私は、振り返り、メリサさんに言った。


「それじゃあ、行きましょうか?」


 一歩、一歩確かに踏み出し私は、ダンジョンに向かった。今日は、VTuberの夢風ゆめかぜ 天心アマネではない。逗鞠 結愛として、ありのままの自分でここにいるのだから。


 ***


「皆さん、おそろいですか? それでは、作戦通り、ダンジョン・ロイ再攻略作戦の開始をここに宣言します。」


 ダンジョン協会会長の天野により、告げられたこの作戦。私たちは、一番最後にダンジョンに入り、他のチームが序盤の敵を倒してくれるらしい。ダンジョン・ロイには、地図は存在しない。存在しても、途中までの未完成のものだ。


 そのため、その未完成の地図を使い、書かれている最後の階層まで最速で移動しなければならない。


「次、左の通路から2体ほどの中級ぐらいの魔物がいます。GOLNさんお願いします。」


 そのため、メリサさんのSkillである予知能力で、ある程度の戦闘を回避することが必要だ。今回は、避けることは難しいらしい。このあたりは、残されている地図も、曖昧な書き方になってきているため、一本別の道に入れば、迷子になってしまうだろう。


 その後も、何度か魔物と遭遇することはあったが、GOLNさんがタンクとして、攻撃を受け私のSkillで、倒していくということを何度も繰り返した。


 あとになって、分かることだかSkillを使うにはとてつもない、集中力と、精神力が必要になっていることに気づいた。少しでも、集中が切れ、相手への意識をそらすとSkillが発動しないのだ。


「結愛ちゃん。大丈夫?」


 一番、Skillを使っているはずのメリサさんが心配してくれた。少し後頭部を抑えて、少し笑みを浮かべて、ゆっくりと答える。


「大丈夫です。少し、運動不足だったのが出ているだけなので。」


「そっか……。」


 なぜか、腑に落ちないような顔をしている彼女の顔から目をそらした。なぜか、自分が見えていない自分を見透かされているようで、恐ろしかった。彼女は、きっと……。私の未来も見えてしまっているはずだから。もし、未来が見えているなら、私のこの選択を、許してくれるだろうか?


 ***


「全員、いったん止まれ!」


 GOLNさんの掛け声で、私たちは道の中央で止まることになった。何時間も、走っていたせいか、息がとてもきれている。最近、この攻略のために、体力づくりをしたというのに……。


「地図があるのは、ここまでだ。ここからは、いっさい、情報がない。その分、気を取り直して進むことにする。メリサさんには、悪いがSkillをこれからも積極的に使ってほしい。」


「分かりました。戦闘は、出来ないので皆さんの少しでも役に立てるようにがんばります。」


 彼女の返事をすると、このパーティーの実質、指揮官である彼が辺りを見渡している。


「どちらに、行ったんだろうな……。前の攻略隊の人々は……。少しでも……。ほんの少しでも遺品が残っているといいんだが……。」


 彼が、誰にも返事をもらえないつぶやきをしているのを聞いてしまった。周りの人たちには、聞こえていないらしく、すぐにメリサさんが、


「右の道に行きましょう。こちらの方が安全なので。」


 という提案をした。彼は、さっきまでのナイーブなつぶやきをしていたとは思えないほど、明るい声で、言った。


「よし、それじゃあ……。右の道に進もう。MODE。いつ魔物が出ても、対応できるように準備しておいてくれ。そして、他の人たちも。」


 全員が、右に進む準備をしているとき、1人が立ち止まった。そして、は言った。


「左に行きましょう。」


 彼――魔守――は、私たちに向けて、確かにそういった。「左に行きましょう」と……。


「何故ですか? 魔守さん。」


 彼の問いに、彼は変な空白をつけて答えた。


「それは……。それは……。前の攻略隊が、進んで全滅してるのが……、右だからです。みんなで左の道に行きませんか?」


 本当は、彼は『右に行きましょう』と、言いたかった。しかし、彼のもとにボスから命令があったのだ。『左に進め』と。


 彼の心の叫びに誰も気づかないまま、周りのメンバーは、彼を怪訝な目で見つめ始める。


 後から、考えてみると、ここがこのダンジョン攻略の混乱の始まりだったのだ。



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