第25話 依存体質の中の人

『今、会えないかな?』


 に対して、株式会社Lelive 現社長である服部はっとり 咲羅さらが、メールを送信した。既読には、数分かかるだろう、相手も暇な人間ではないのだから、そんな考えとは裏腹に既読は、すぐにつき、返信が来た。


『本当ですか!(^_^) 今すぐ会いたいですけど、お昼から配信なので、夕方になるかもしれないですm(__)m サラさんがお急ぎなら、配信なんてキャンセルしますけど……。』


 彼女の中では、『今すぐに会いたい!』という返信を期待してるのだろうが、残念ながら咲羅のなかには、そんな選択肢はなかった。


『それなら、夕方の5時に会おう。時間大丈夫かな?』


『はい!大丈夫です(*´ω`*)』


 相変わらず、顔文字が多いところは変わってないのだな。社長としてではなく、かつての彼女のマネージャーとして、彼女の昔の姿を思い浮かべた。努力家だった、彼女。そして、人一倍人気を得るために犠牲にしたものが多かった彼女。


 そんな、彼女――雪城 ルイ――は、今でもattenTGアマリスの『モルカ・ユルクル』として配信活動を行っている。


(あまり大事おおごとにしたくはないな。)と、彼女は思った。


 アマネも彼女にとって大事なVTuberの一人だが、モルカの方とでは、共に過ごしてきた時間が違いすぎる。


 彼女の配信活動に支障が出ることにはしたくない。しなし、本当に彼女がアマネの顔バレ騒動を起こしたのかを知りたい。今の宙ぶらりんの状況だけは続けたくなかった。


 なんとなく、彼女の配信を開く。今はもう有名になったRPGゲームの実況。彼女が昔から好きだったゲーム。今ではその腕前はプロ級だ。今日は、リスナーとのバトルをする企画らしい。


 真剣に取り組んでいる彼女を相手に勝てるリスナーはいなかった。そんな、ウキウキで笑う彼女を見てあるリスナーがコメントをした。


【モル様、めちゃくちゃご機嫌だね。】


 そして、モルカが答えた。


「うん! 今日ね、久しぶりに、会う人がいて、すごく楽しみなんだ。」


【彼氏か!?まさから俺らのモル様もついに彼氏が!?】


「違うよ。私、彼氏できたことないもん。それで、会うのは前のマネちゃん。今、他の企業で働いてるんだ〜〜。」


 そういった彼女はまた一人、リスナーである対戦相手を倒し、八連勝となった。そして、含みのある言い方で言う。


「めちゃくちゃ、楽しみ。どんな反応するかな〜、マネちゃん。」


 ***


 まだ、少し明るく夕日が傾いているこの時間。私は、彼女に会うために、昔からよく行っていた喫茶店に向かう。この喫茶店は、昔から人の出入りが少なく、VTuberのマネージャーをしていた時にはとてもお世話になった思い出がある場所だ。


 昔は、彼女の愚痴を聞く場所としてよく利用していた。


 店内に入ると、昔からの特等席である角の一番日差しが差し込む席に彼女の姿はあった。ひどく傾いていた日の光を受けて、まるで絵画のような世界がそこには広がっていた。彼女の目がサラの姿をとらえた。


「サラさん~~! こっちです!」


 子供のように大きく手を振る彼女の姿は昔と変わっていなかった。サラも小さく手を振り返し、ゆっくりと彼女と彼女と反対側の席に座った。


 机の上には、まだ温かそうなコーヒーが置かれていた。まだ、来たばかりだろうか。そんなに待たせていないと、信じたい。


 奥にいるマスターを呼び、自分もコーヒーを頼むと、彼女と世間話を始める。はじめは、


「最近はどう?」「周りとはうまくいってる?」と、当たり前の質問をした。彼女は、最近〇〇と、どこに行ったとか、この配信の企画が通らなくて悲しい。といった、話ばかりをした。


 本題に入るのが怖かった。


 しかし、コーヒーをすべて飲み終わってしまう。早く本題を聞かなければ。もう、自分は一生この子に聞くことはできないだろう。


 腕をゆっくりと組み直す。息をもう一度おおきく吸ってみる。しかし、心臓の音は相変わらず大きな鼓動ばかりを鳴らしている。決心を決めるしかない。


「ねぇ、ルイ。一つだけ聞きたいことがあるんだ。」


「え?なんですか。なんか、ドキドキしちゃうな〜。なんですか?サラさん。」


「ルイ。君が、うちLeliveのアマネの顔写真をネットに晒した犯人じゃないよね?」


「え?」


 彼女は一瞬静止した後、明るく笑って口元で手をブンブンと、横に振って答えた。


「何言ってるんですか?私は、撮ってませんよ。なんで、サラさん疑うんですか? 冗談でも傷つきますよ。それに、あの騒ぎはもう忘れ去られてますし、サラさん、考えすぎじゃないですか?」


 私は、わざと笑った顔を作った。彼女に勘付かれないように。


「そっか、そっか。ゴメンね。ルイだけだからさ、あの配信の予定言ったの。気を悪くさせちゃったから、今度なにか奢るよ。」


「え! 本当ですか。それなら、昔に行ったあのパンケーキ屋さん行きたいです。あの、フルーツ家たくさんのってたやつ。約束ですね。


 あ、すいません。もう時間だ。」


「コチラこそ、ごめんね。いま忙しいのに。」


「いえ、全然大丈夫てす!じゃあ、また!サラさん、パンケーキ忘れちゃだめですよ。」


 彼女と、別れた後サラは考えた。


 なぜあの時、彼女は『私は』と、言ったのか。それを考えるたびに鳥肌がたつ。そのため、急いで彼女が、行きたがったパンケーキ屋を調べて予約を入れようとした。


 少しでも気をまぎらわせたかった。しかし、検索結果の一番上にでてきたのは、『閉店のお知らせ』。


 余計に空気が寒く感じた。なにか取り返しがつかないような、奪われた何かがあるような感覚だった。


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