第22話 Skillが壊れた時

 ピー ピー ピー


 頭の中に電子音が響いている。不思議と身体は縛られているように動かすことができない。頭を上げろ! 身体を起こせ! そう、身体に命令するが、その命令が実行される気配はない。


『結構な無茶したね〜。』


 まるで、脳内に語りかけるような声にビックリした。いや、実際、誰かに話しかけられている。そして、この声には聞き覚えがある。


 そう、この即死Skillをもらった時の声だ。


『なら、叶えてやろう。』


 そう私――逗鞠とどまり 結愛ゆめに告げた声。そして、今話しかけてきている声。


「どちら様ですか?Skillをくれた方ですか。」


 一応、腰は低くしておく。


(だって、ダンジョンの神です! とか、言われたら失礼じゃん。一生ダンジョン配信できなくなりそうだし……。)


『残念だけど、そろそろ目が覚めそうだしバイバイ。結愛ゆめちゃん。Skillは、好きに使っていいから。使い方は君に任せるよ。そういえば……』


 言い終えぬうちに、フィードバッグしていく声。


 また、ピー ピー ピーという電子音しか聞こえなくなっていく。


 最後に、あの声がなにを言いたかったのかその時の結愛は、知る由もなかった。


 ***


 少しずつはっきりとしていく視界。白いまっさらな世界に少しずつ色がついていくような感覚。しかし、部屋の色がもともと白いのか、中々ぼやけている視界の大半は白色だ。


 そして、鼻に付く消毒液の匂い。


 これらの情報から私の脳は病院だという結論を出した。そして、身体中に痛みが広がり、ここが現実だということが分かる。


 側に誰かいたのか、私に駆け寄るような足音が、聞こえた。そして、そこに現れたのは私の母親の顔だった。


 その顔は、ひどく泣いていたのか赤い目をしていて、涙の跡が顔には残っていた。そして、その跡を沿ってまた涙がこぼれ始める。


「良かった……。良かった……。」


 そう話す母親の後ろには、少し暗い顔をした、社長が壁にもたれかかって立っていた。私と目が合うと……。少しほほ笑みかけてくれる。


 今は、いつもの眼鏡をかけていない。さっきもパ母親の顔を見てしまった。目を合わせてしまった。


 今も、社長と、目を合わせている。このままではここは血の海となってしまう。気が緩んでいた。


 しかし、そこは温かい空気が漂ったままだった。誰かが、死ぬことはなかった。


 それは、私のSkillが亡くなっていることを意味している。どうしてかは、分からなかった。しかし、頭の中にはずっと、謎の声の言葉が響いていた。最後の言葉である、


『そういえば……』


 その言葉の後ろには、この言葉が続いたのではないだろうか。


『そういえば、結愛ちゃんは、しばらくSkillを使えなくなってしまうよ。』と。


 私の背筋はひどく凍えた。しかし、それは誰にも、伝わることはなかった。


 ***


 skillが使えなくなって、一週間。Leliveの夢風 アマネは、【活動休止】をしていた。どうすることもできず、ただネットの反応を見ていた結愛は、小さくため息をつく。


 彼女が見ていたのは、自身の活動休止を発表をした時のコメント。その内容は様々で、


【いきなり? どうしたのアマネちゃん?】


【いつまでも、待っているから、ゆっくり休んでね】


 と、いった。温かい言葉を投げかけてくれる人もいれば


【最近、顔ばれとか多くない?】


【少し、心配だな……。見ていて、しんどくなってきた(運営 しっかりしてくれ!)】


 と、Leliveに対して、不信感を持ってきたファンの声も増えるようになってきた。


 社長には、Skillを使えなくなってしまったのは、病室に来た時に伝えた。


 社長も私と目が合った時の違和感で、理解するのにそんなに時間はかからなかった。そのため、活動休止を、私に提案したのも、社長だ。


 その後、すぐにSkillに詳しい研究者のいる人に聞いてみたが、原因は分からなかった。その人は、私に向けて


「もしかしたら、もうSkillは使えない可能性があります。覚悟をしておいてください。」


 と言った。しかし、わたしは絶対その結果だけにはならないという、確証があった。なぜなら……


結愛ゆめちゃん。Skillは、好きに使っていいから。使い方は君に任せるよ。』


 あの声は、言っていただから。これは、もうSkillを自由に使えという、メッセージなのだから。正体も分からないあの声を、信じることができれば、の話だが……。


 私と、一緒にダンジョンに潜った探索者の方々も全員無事だったらしい。まだ、会えていないが、今度会いに行きたい。


 しかし、パーティーリーダーの赤池さんだけ、精神的なダメージで、もう探索者は続けられない状態らしい。


結愛ゆめちゃん。大丈夫?」


 メリサさんと、ユーゥさんは私が、事務所にいくと真っ先に私に向けて聞いた。その後も、


「すぐ治るよ。」

「心配しなくても大丈夫だよ。」

「少し疲れていただけだよ。」


 と、私をはじめましてくれた。その言葉が、嬉しくて少し前を向いてみることにする。


 活動休止の間にリンさんは、新しい夢風 アマネの衣装を作ってくれるらしい。


「可愛い衣装を作るのだ!期待しておいてほしいのだ。だから、ゆめちゃんも、頑張るのだ!」


 そう、言って肩を叩いてくれたことは一生忘れない。この絶望を乗り越えてこそ、夢風 アマネだ。どんだけ、失敗しても前だけを向いてやる。だから、休止中の間で、わたしは新しいダンジョンに向けて身体を鍛えておく。


 もう、新しいダンジョンにつまずかないためにも。私は、探索者の方よりも未熟だ。だけど、こんな強いSkillをもらったからには、多くの人を助けたい。


 結愛の中で、新しい夢を見つけた瞬間だった。

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