第5話 就職の儀
グラエキア王国では7歳になる年の子供は
そう。
レクスは今、スターナ村の小さな教会に向かうために身だしなみを整えていた。
妹のリリスが今年で7歳になるため儀式を受ける必要があるのでそのお供である。
身綺麗にしなければならないのはガルヴィッシュ家が村の顔役であると言う理由からである。スターナ村は小さな村で一応村長はいるものの、騎士爵位を持つテッドの影響力は大きい。
「リリス、レクス、行くぞ」
そうテッドが2人に声を掛けた。
リリスがふんす!と意気込んで大きく頷くとその長い亜麻色の髪が揺れる。
儀式は12の鐘が鳴る刻に始まると先触れがあった。
小さい村とは言え、先に教会に着いて迎える必要がある。
家を出て整備されていない教会への道を歩いていると、遠くから聞き覚えのある声がする。あの声は幼馴染のミレアだ。レクスと同い年で
「ミレアお姉ちゃん、こんにちは!」
駆け寄って来たミレアにリリスは弾けんばかりの笑みを浮かべて挨拶した。
レクスも手を挙げて「よっ」と声をかける。
ミレアは一瞬だけどこか意外なモノを見たかのような表情になるも、すぐに元の表情を作り、リリスへ話し掛けた。
「リリスちゃん、こんにちは。いよいよだねぇ。良い
「ううぅ……緊張するよぉ……」
「なんだ。それでずっと大人しかったのか。リリスもまだまだお子ちゃまだな」
「もう! お兄! 倒れてから急に生意気!」
「生意気なのはお前だよ」
リリスはぷんすかと頬を膨らませてレクスのことを睨みつける。
テッドはそんな様子を見てニヤニヤしながら「お前もまだお子ちゃまだろ」と心の中で思っていた。
今日の
レクスの自宅から左程離れていない教会に大した時間もかからずに到着するが、まだ誰も来ていないようであった。いるのは教会の中を清めている大人の女性くらいだ。
たかだか人口250人程度の村である。
広大な麦畑があり一軒一軒の家が離れてはいるが遅刻するようなら呼びにでも行けばいいだろう。
「そう言えばミレア、カインは誘わなかったのか?」
「ええッ!? カインは来る気なんてないでしょ~」
「そうだぞレクス。獣人がいるのはバレない方がいい」
バレたら迫害される恐れがある以上、公的な場には出ない方が良いだろう。
妥当な判断だ。
「ちょっと神官様に挨拶してくるから待ってろ。もうじき12の鐘だからな?」
レクスたちは揃って返事をするとミレアとリリスは女子トークを始めた。
ませた子供たちだと思いながらレクスは別のことに思考を移す。
この『セレンティア・サ・ガ』の世界は絶対神ロギアジークが混沌から創り出したと言われている。そして人間やエルフなどと言った万物の霊長を生み出したのだが、生まれたのはそれだけではなかった。同時に虚無をも生み出しそれが形となって漆黒神マーテルディアが生まれた。その2柱の神は壮絶な戦いによりロギアジークはその体を12つに引き裂かれて眠りにつき、マーテルディアは天空に輝く月に封印されたとされる。また、ロギアジークの配下には亜神が、マーテルディアの配下には魔神がおり対立している。ただ刻と共に人間などと混じり合い好き勝手やっているらしい。
ちなみにこの世界ではロギアジークが絶対神として認知されているが真実はだたの古代神であり、絶対神は別に存在する。その名をガトゥと言い、何故か歴史から抹消されたとされる。これは裏設定なので恐らくこの世界の人間は知らない。
また、
このゲームはそんな世界の大国の1つであるグラエキア王国の内乱に端を発した世界の動乱を描く物語である。
レクスには転生した理由など知る由もないが、この動乱で数十万規模の犠牲が出ることは知っている。
マルチエンディングのため、どのような結末になるかは分からない。
そのためにもモブではあるが、少なくとも強くなっておく必要があると考えていた。
自身だけでなく大切な者を護るためにも。
そんなことを考えていると12の鐘が聞こえてくる。
そして王都グランネリアから派遣された騎士がやってきた。馬車に乗っているのは鑑定士だろう。彼らはすぐに教会の中へと消えていった。
続いてレクスたちも教会へ入ると既に
「皆、よく集まってくれた。これより
祭壇にいる神官が大きな声で儀式の開始を伝える。
質素な教会ではあるが静謐な雰囲気が漂っている。
ステンドグラスや壁画など華美な装飾はないが、たかだか村の小さな教会なのでそこまで凝っている訳ではないのだろう。
「デニーの子、オレール前へ」
「はい」
祭壇まできた男子に鑑定士の男が手をかざす。
「オレールの
鑑定士はそう言うと羊皮紙に鑑定結果を書き込んでゆく。
恐らくレクスの指輪で見れる内容が鑑定士にも見えているのかも知れない。
「(鑑定士の
7歳とは言え男子である。
戦士になったことが単純に嬉しいのか、その表情は明るい。
レクスとしてもこの小さな村で魔物と戦える人材が生まれたのは大きいと考えていた。
父親のテッドは日々、魔物を間引くために戦っているのだ。
それが村々に配備された騎士爵位を持つ者の務めでもあった。
そんなことを考えている内に次の子供の番がやってくる。
「ドルグの子、ブリス前へ」
「はーい」
「ブリスは
その言葉にブリスは明らかにしょげた様子で祭壇を後にした。
レクスは
「(そうか……必ずしも授かる訳じゃないのか……)」
その後も鑑定は続けられ、いよいよリリスの番がやってきた。
リリスは幼いながらも緊張した様子だ。
中々一歩を踏み出せずにいる。
「ほれ。頑張って行ってこい。なぁに俺の子だ。必ず良い
「リリス、どんな職業だろうと俺の妹であることには変わりない。お前は大丈夫だ」
テッドの激励に合わせてレクスも笑みを浮かべて温かい言葉をかける。
リリスもその言葉に踏ん切りがついたのかゆっくりと祭壇へと向かう。
祭壇の前まできた彼女に鑑定士の手がかざされると、その顔色が変わってゆく。
「リリスの
鑑定士が興奮した表情で結果を告げる。心なしか声も上ずっていた。
神官と騎士も驚愕の色を隠せないようだ。
それを聞いたリリスがレクスの方に振り向く。
その表情からは結果をよく理解できなかったような感じを受ける。
「(いきなり上級職を授かることもあるのか。聖騎士は
「でかしたリリス! 流石は俺の子だ!」
興奮気味に叫ぶテッドにリリスが駆け寄り抱きついた。
ようやく実感が沸いてきたようで硬かった表情も緩んでいる。
レクスも近づくとリリスの頭を撫でる。
「やったなリリス」
「わたし、聖騎士様になれるんだね! 聖騎士様かぁ……」
「リリスちゃん、おめでとう!」
ミレアも我がことのように嬉しそうな顔をしている。
彼女にも6歳の弟がいるため将来のことを考えると楽しみになったのだろう。
やがて神官により
「今夜はお祝いパーティーだな。森に入って獣でも狩ってこよう」
「父さん、俺も連れてってよ。色々試したい」
「おッ……お前も言うようになったな。しかし――うーむ、まぁいいだろう。特別に許可しよう。となりゃあ大物をとるぞ!」
こうして就職の儀はつつがなく終わったが、レクスの興味は既に狩りの方へ向けられていた。王立学園での実習で
レクスたちはすぐに狩場へと赴くべく自宅へと急いだ。
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