第6話 リスク管理
話し合いを終えて応接室から出たメルクリースは、朝食を食べる為に食堂にやって来た。
「メルクリースお疲れ様、朝から役人さんと話し合いなんて災難だったわね。」
食堂にやって来たメルクリースを見付けてミネルバが声をかけて来た。
「現役の聖女を静養させるなんて神託は前例が無い事ですから仕方無いですよ。それよりクロさんが居ませんね?」
「クロさんなら向こうで皆さんに可愛がられてるわ」
「なるほど、クロさんはラブリィモフモフですから、皆さんの行動は当然ですね♪」
ミネルバとメルクリースが視線を向けた先には、クロさんを順番に抱っこして喜ぶ聖女達の姿があった。
代わる代わる聖女達に抱っこされるクロさんも、ゴロゴロ喉を鳴らし幸せそうに目を細めている。
クロさんの名誉の為に説明しておくと、神獣という存在は『喜び・愉快・感謝・希望』等々のポジティブな感情に、癒しやエナジードリンクのような効果があるので
今のクロさんは絶賛癒され中なだけであって、決して女性好きなエロ神獣では無い事を明言しておく。
そもそも神獣には性別の概念が無いのでそういった感情はゼロである。
「あちらはクロさんに任せて私達は先に食べませんか?」
「ええ、クロさんも喜んでいるみたいだし問題は無さそうです。」
「それで、メルクリースはいつ頃ピスケス領に向かうの?」
「色々と準備があるのでとりあえず10日後くらいを予定してます。」
「とりあえず?案外ゆっくりなのね」
「今回は仕事では無く静養の為なので、慌ただしく準備をしては静養になりませんから」
「それもそうね、仕事の引き継ぎは、、、わざわざするほどの事も無いか。メルクリースが1人でしてるのって礼拝堂の掃除だけでしょ?」
「はい。他の仕事は誰かと一緒ですから、、、そうそう!ペッツさんって話好きのおじいちゃんが3日に1度来られるから、予定を開けてきちんと相手をしてあげて下さい」
「わざわざ予定を開けてまで相手をするなんてメルクリースらしいけど、そんな事をしてるから静養させられるのよ。まっ、私もお話を聞くのは好きだからいいけどね」
創造神から神託を受ける以外の聖女の仕事は、礼拝堂を含む神殿全体の維持管理が基本となる。
他には国が管理運営している孤児院で子供達の相手や里親探し、聖都の広場で炊き出し等がある。
聖女の位が上がると怪我や病気を治す力が増すので、王族や上級貴族を相手に健康診断も行っている。
ちなみに現在王族の健康診断をしているのは、上級聖女のユピテルである。
◇ ◇ ◇
聖女達から解放されたクロさんはメルクリースを探して礼拝堂に行くと、礼拝堂の入り口の横に椅子とテーブルを並べているメルクリースを見付けた。
「メルはここで何してるニャ?」
「クロさんじゃないですか、お金が必要なのでお仕事をするんです。」
「んにゃ?」
首をかしげるクロさんのラブリィな姿を見て、ニヤニヤしながらメルクリースが答える。
「実はピスケス領まで行く費用を出す余裕は王国には無いと言われまして、それなら自分で稼ごう!という事で準備してるんですよ」
「占いでもするのニャ?」
「たぶん前世では占いは好きだったような気はしますけど、今の私に出来る事と言えばこれでしょ!」
『健康相談・1回銅貨1枚』
と書かれた紙をテーブルの前に貼ったメルクリースは、満足気に椅子に座る。
「健康相談?治療はしないのニャ?」
「私にそんな能力は無いので、ジャジャーン、コレを使います!」
メルクリースが取り出したのは、クロさんと聖女の能力を制御する練習で産み出された木製のコップの神器だった。
この神器に入れた水は浄化されて聖水となるので、この水を飲めば体内に入り込んだ悪い物は浄化されて消えてしまう。
今はまだメルクリースの能力が低いので、風邪や花粉の改善くらいしか出来ないが、他にも
流れの悪くなった血流の改善や、凝り固まった筋肉をほぐしたり等も出来てしまうので、それらの効果が銅貨1枚で得られるのなら充分過ぎるだろう。
「メルこれは安過ぎニャ、1回銀貨1枚にするニャ!」
「クロさんそれは駄目です。治療をするなら銀貨1枚が妥当かもしれませんけど、あくまで健康相談ですから、銅貨1枚で充分です。」
「むぅ、メルにはお金の重要性を教える必要があるニャ」
前世の記憶が朧気ながらも甦ったメルクリースは、クロさんが心配するほど世間知らずな娘では無い
メルクリースには専門的な医学の知識が無いので、病気や怪我を治療して、後々再発したり調子が悪くなったと言われても対応出来ない為に、治療では無く『健康相談』としたのだ。
ワーカホリック聖女様はリスク管理もちゃんとしているのである。
【神聖十二王国、貨幣一覧】
鉄貨1枚ー10円
銅貨1枚ー100円
銀貨1枚ー1000円
大銀貨1枚ー1万円
金貨1枚ー10万円
つづく。
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