第2話

 俺はこの状況をどうすればいいか考えていた。


 床には弁当が落ちていて、俺の隣には興奮している男子生徒、状況に混乱している比呂と渚。


「おいおい、流石に酷いぞー、叩くなら俺の左手にしてくれ、びっくりして落としちゃったじゃんかよ」


「――――ッ、ボ、ボクはただ」


「とりあえず渚には謝れよ」


「な、なんでお前にそんなこと言われないといけないんだ」


「はぁ? お前自分のせいで好きな人に迷惑かけた挙句あげく、悲しませてることわかってないのかよ」


 俺の言葉にその男子はハッとなる。

 ようやく我に返ったのかはわからないがもう遅い。


「あ、あ、これはその……渚さん」


「私にはいいから秀介に謝ってもらえないかな?」


「ど、どうしてコイツに……」


「手を叩いたのはあなたでしょう? ごめんね君の気持ちにはやっぱり答えられない。でもそれを言い訳に何でもしていいってわけじゃないと思うの」


 渚は淡々と言葉を並べていく。

 その言葉を聞いて男子生徒は段々と表情がしんどくなっていくのが分かる。


「あなたのこと、


「あ、あぁ……」


 一番言われて辛い言葉を直接言われて、男子生徒は膝から崩れ落ちる。


 俺はそれを見て、もう謝らなくていいよと思ってしまう。

 涙目で見上げられると嫌でも哀れに思う。


「お、俺は渚がいいならいいんだ、嫌なこと言って悪かったな」


「あ、いや、そのごめん……なさい」


「まぁ、可能性はもうゼロだけど他の人に今回みたいなことしないように頑張れ」


「…………はい」


 そう一言だけ告げて俺は教室に戻る。

 その後に続いて渚や比呂も教室に入ってくる。


「びっくりしたねー、あんな人学校にいるんだ」


「まぁ、人それぞれだからな」


「白浜さんは大丈夫?」


「はぁ、渚お前が気にする必要はないだろ。それにせっかく弁当作ってもらったのに悪かったな」


 俺と比呂は渚のことを心配して、話しかけるが眉が下がったままで表情はずっと暗い。


「う、うん私は大丈夫だけど……ごめんね私のせいでみんなに迷惑かけて」


「まぁモテすぎるのも辛いって感じか――――そんな贅沢な悩み言ってみてぇ」


「もうっ私、真面目に悩んでるんだよ」


「わかってる、悪かったよイジるつもりはなかったんだ」


 実際、渚の苦労を知ろうとしても到底理解のできないことだからな。


 そんな悩みを女子に話すものなら、嫉妬を買ってしまうからな。

 自分の胸の内に塞ぎこんでいるのだ。


「あと、その弁当返して? 捨てておくから」


「いいよ、俺がもらった物だし洗って返すよ」


「でも……」


「いいからいいから、ほら先生の話がそろそろ始まるから」


 半ば強引に渚のことを追い返し、先生が教室に入ってくる。

 不満そうな渚がチラチラとこっちを見てくるが、気づかないフリをする。


「秀介、その弁当どうするの?」


「あ? そりゃ食べるに決まってるだろ」


「食べるって――――それ廊下の床に落ちたやつだよ?」


「あぁ、そうだ廊下の床に落ちた髪の毛やほこりなんかも付いてる弁当だ」


 自慢げにそう答えると、比呂は少し引き気味だった。

 俺だって食べたくて食べたいわけじゃ――――いや、渚の手作り弁当は食べたい。


 けど流石に落ちたやつではない弁当を食べたいと思ってしまうけどな!


「しゅ、秀介……顔が怖いよ」


「誰が顔がブスだって?」


「言ってないよそんなこと、むしろ秀介は……いやなんでもない」


「まぁ、いいや。今日はとりあえずこの弁当を食べてから帰るから」


 俺がそう言うと比呂はなぜか納得した顔で頷いていた。


 なんだ、急に……コイツ気味悪いな。


「んじゃ、また明日から頑張ろうねー」


「あぁ、またな比呂」


 比呂はバッグを持って手を振って教室を出て行った。

 たぶんサッカー部は今日も部活があるのだろう。


「よしっ、誰もいなくなったな……」


 俺は周りを見渡して、生徒が誰一人残っていないことを確認する。


 渚に作ってもらった弁当をもう一度見る。

 形は崩れてしまっているが、まぁ食べれないことはないだろう。


「髪の毛や埃は取り除かせてもらって……それじゃあいただきます」


 うんうん、たまに食感にゴリッとか不快なことがあるけれど味は本当に美味しい。


 渚は料理も上手で本当に家庭的な女の子の部分もある。

 妹がいるからか……それとも。


「秀介、どうしてそのお弁当を食べてるの?」


「な――――渚ッ?!」


「驚くのはこっちの方なんですけど!」


「いやいや、だって部活に行ったんじゃ……」


 部活に行ったはずの渚が教室に戻ってきたのだ。

 弁当を食べている所をみられてしまった。


 当然、何をしているのか理解できていない様子だった。


「どうして、その弁当を食べているの? 捨てるって言ってたのに」


「あ、あー……これはその」


 ダメだ、なんて理由をつければいいかわからんし、この状況を抜け出せるのは無理な気がしたので諦めることにした。


「せっかく弁当を作ってもらったのに、一口も食べないまま捨てるのは申し訳ないって思ったんだよ、あと美少女高校生の弁当を食べる機会なんて、一度あるかないかだからな!」


「――――ッ! 美少女って……もうそういうのはよくない」


「え、ごめん……何か言った?」


「な、なにも言ってない! ていうか、作ってほしいって言ってくれれば弁当くらいいつでも作るよっ」


 渚はそう言いながら、俺に近づいてくる。

 そのまま俺が食べかけていた弁当を片付け始める。


「いやそんなに弁当を忘れないぞ! てか、その弁当片付けるの?」


「なんで? これでお腹壊したりしたらどうするのよ」


「いや、壊さないと思うが、やっぱりだめですかね?」


「いいからっ、また作ってあげるからこのお弁当は返して……わかった?」


 上目遣いのような目線を使われながら聞かれると「はい」と口から漏れ出すように言葉を出していた。


「あっ、ごめんっ部活だからもう行くね?」


「あ、あぁ……渚ッ!」


「ん? どうしたの」


「美味しかったぞ一口しか食べれなかったけどな――――あとは部活頑張れ!」


 そう言うと、渚は顔を赤く染めながらそっぽ向く。

 教室から出て行ったと思ったらまた戻ってきて、俺の方を真っすぐ見つめてきた。


「ありがと、頑張ってくる…………ばか」


 最後の方は聞こえなかったが、ありがとうと言われたので良かった。

 まぁ、あの目は直球で褒めすぎたせいかな。

 睨まれてたから、怒られるかと思ったから安堵した。


 まぁ中には渚に怒られたいとか、睨みとか鋭い目つきや罵倒されたいって連中もいるからな。


 可愛いとは罪である。

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