第1話 

 俺の幼馴染はクラスで学年でもしかしたら学校中で一番可愛いかもしれない。顔もスタイルも性格も運動もでき、頭もいい。


 月に一度は絶対に告白されているし、他校のイケメン男子からもデートの誘いを受けたとか。


 でも一度も付き合ったとかそういう噂を聞いたことはない。

 しかも男子には一定の距離を保っているとか聞いたこともある。


 ――――それなのに、俺にはそういう一定の距離がないとか言って他の奴らから恨まれることもある。


「秀介おはよう――――って、なんでそんな機嫌悪そうなの」


「いや、今日も変な奴らにな絡まれてな」


 こんな俺に普通に話しかけてくれるのは雨森比呂あまもりひろ、中学からの付き合いのある奴だ。


 俺も比呂のことは友達いや、親友だと思っている。

 ほとんどの奴らは近づいてきても最終的に渚の情報を知るための道具としか見てないってわかっている。


 入学式とかクラス替えの時は本当に多い。


 そんなことをぶつぶつと比呂に愚痴っていると教室がざわざわと騒がしくなる。


 渚が教室に女友達と入ってきたのだ。

 そして一斉に男子が彼女のもとへと向かっていく。


「あ、あの今日から同じクラスの――――」


「俺は剣道部の――――」


「友達、いや知人からでいいんで――――」


「オシャレなカフェが――――」


 そんな同じ言葉を並べたかのような薄っぺらい自己紹介を聞かされている。


 当の本人は困っているが連絡先やお近づきになりたい男共からしたら関係ない。


 渚は苦笑いで済ませている。

 そして半ば無理やり男共から距離を取り、俺の方へ向かってくる。


「おはよー、雨森くん」


「…………あ、あぁうん、おはよう」


「固まっちゃってどうしたの、2年生になったのに入学式で緊張してるとか?」


「いや、そうじゃないけど……そうかも?」


 比呂がぎこちなくなるのも珍しい。

 ほぼ大抵の人が渚と面と向かうと固まったり、ぎこちなくなる。


 それだけかわいいってことなのかもしれないが、俺には理解できないことだった。


「渚何しに来たんだよ、席はこっちじゃないだろ」


「うわ、機嫌悪そうだからきてあげたのに、そういうこと言うんだ」


「来てあげたとは何だ、別に頼んでないのに――――元はと言えばお前が」


「私が?」


 俺はそこで言うのをやめた。

 別に渚だってしたくてモテてるわけじゃないだろうし、俺に寄ってくるのは別に彼女のせいじゃない。


「なんでもない」


「何かあるなら言ってよ」


「じゃあ遠慮なく……疲れてるせいか? 目の下にクマあるぞ」


「え、ほんとに?!」


 そう言って、渚は慌てた様子で手鏡をスカートのポケットから取り出す。


 クマ一つでそんなに焦るもんか?


「嘘だよバーカ」


「なっ――――さいってー信じられないもうっ!」


 渚はプリプリと怒りながら自分の席へ戻る。

 比呂はそんなやりとりを見ながらポカンとしていた。


「秀介には緊張とかないわけ?」


「なにに緊張しなきゃいけないんだよ」


「白浜さんにだよ」


「お前なぁ、物心ついたころには渚と遊んでたんだぞ? 今更緊張なんてするわけないだろ」


 ごく当然の様に言うと比呂はあまり納得していない様子だった。

 幼馴染なんてそんなもんだ。


「やっとお昼だねーって何してるの秀介」


「え……今日は入学式でお昼までだろ?」


「聞いてなかったの、今日は午後に先生の話があるから弁当持って来いって言ってたじゃん」


「そんなこと言ってたような言ってなかったような……」


 帰る準備をしていた手を止め、弁当など持ってきていないことを確認して、財布を持ち購買へ向かっていく。


「どこ行くの?」


「購買だ。安く済ませるにはそれしかない」


「今日はやってないよ……だから弁当持ってこいって」


「学食は来週からだもんな、今日は最悪食べなくても大丈夫だよな」


 別に2時くらいで終わるのなら、昼を抜いても大丈夫だ。

 帰ってから爆食いすればいいだけの話。


「まぁ、飲み物買いにいこうよ」


「んだな、コンポタ買うわ」


 少しでもお腹にたまりそうなものを選んで自販機で飲み物を買う。


 コーンポタージュなので飲み物かどうか怪しいが。


「あれ? コーンポタージュなんて珍しい」


 自販機の前で渚が俺が買ったものを見て話してくる。


「別にいいんだよ、たまにはカフェオレ以外に飲みたいからな」


「ふーん、まぁいいけど……どうして雨森くんはそんなに笑ってるいるの?」


「比呂……お前ぇ」


 隣を見ると口を手で押さえ笑いを堪えている比呂がいた。

 渚も気になって、声をかけていた。


「いや、クククッ――――少しでもお腹にたまらせるためにコーンポタージュなんだって」


「お、おいっ!」


 比呂の言葉に渚は呆れた様子で俺のことを見てきた。


「もしかして今日弁当忘れたの?」


「弁当っていうか、今日必要なのかも知らなかった」


「はぁ、そんなことだろうと思った。あんなに毎日カフェオレしか買わないのに今日はコーンポタージュなんておかしいと思った」


「それは別におかしくないだろ!」


 渚は「ちょっと待ってて」と言い教室へ入っていく。


 そして俺に黒い弁当箱を渡してくる。

 しかもしっかりと重いので、中身が入っている。


「なんだよこれ」


「弁当だけど」


「誰の」


「秀介のだけど、どうせ忘れてるかもなって思って作ってきてたの」


 正直びっくりした。

 俺の分まで作ってくる渚の労力に感謝しながらありがたく貰おうとしていた時だった。


「――――な、な、渚さんっ、どうしてそんな奴なんかに!」


 クラスの男子の一人がとてもうろたえながら俺のことを指さしながら言ってくる。


 わかる、わかるよ。なんで渚が俺に弁当を作ってきているのか不思議だよな。

 だって俺も不思議に思ってるもん。


 渚も驚いていたようだがすぐにスッと表情を戻す。


「秀介弁当忘れちゃったみたいだから、本当にもう世話が焼けるよね?」


「い、いつもしてるんですか?」


「別にいつもはしてないわよ? 今日は忘れるだろうって思ってたから」


「いつもなんでソイツばっかり! ボクはこんなにもあなたの事想っているのに!!」


 渚も面倒くさいのに絡まれたな――――ってか今俺のことをめっちゃ馬鹿にしてなかったか?


 別に今日弁当忘れたのは母親に言ってなかっただけだしな。


「ボクはあなたに告白だってしたのにっ!!」


 廊下で大声で叫ぶその男にさすがに引いてしまった。

 いやいやここでそんなこと出すなよ。


 渚は別にキープするとかないし、絶対すぐに断っていると思うし。


「それは告白されたときに、無理ですとお断りさせていただいた筈ですけど」


「そうだっ、ボクはフラれたのにどうして、どうして……」


「それは、傷つけたとは思いますけど……」


 渚は眉を下げながら、どうしていいかわからないといった感じだった。


 まぁフッた相手にどうするもないよな。

 答えを出すだけでもありがたいもんだろ。


「あのさぁ――――ちょっといい?」


「秀介?」


「俺ご飯食べたくて教室入りたいからそこ、どけてくれない?」


 ただでさえこんなのを見たくないし、お腹も空いててせっかく弁当ももらったんだから早く食べたい。


「――――なっ!」


「あと、告白したからなんなんだよ。渚が答えを出してお前はフラれたんだろ? それ以上でもそれ以下でもないのに、何かしてもらいたいってのは話が良すぎるんじゃないか」


「お前になにが分かるんだよっ! ボクの何が!」


「わかんねぇよ? だって俺は告白もしてないし、フラれてもない――――でもお前がそこでワンワン吠えると、周りに迷惑かけてるってこともわからないからやってるんだろ」


 少々厳しい言葉を使ったが、渚だって困っていたし収拾がつかなくなる前にこうするのが一番良かったと思う。


 その渚に告白したという男は静かになった。

 よかった、分かってくれてこれでご飯が食べられる。


「お、分かってくれて嬉しいよ、これで俺は――――」


「うるさい、うるさい、うるさぁぁぁい!」


 そう言って俺の右手をバシンッと叩いてきた。

 その衝撃で右手の弁当を落として中身が出てしまう。


 中身はチャーハンだった。

 おいおい、こういうのは蓋を開けた時の楽しみだろ。


 妙にネタバレを食らった気分だった。


 ――――さてと、この状況どうしようかね。

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