番外編
【番外編1】三人でお出かけ
水平線から朝日が顔を出し、小鳥たちのさえずりが聞こえ始めた頃。
デルドロア公爵邸のキッチンには、エレインとフィオの姿があった。
「うん! とっても上手よ、フィオ」
「わーい! お母様に褒められました!」
朝から二人で何をしているかというと、外に持っていくお弁当を作っている
今日はこれから、三人でピクニックに行くことになっている。
三人でのお出かけはこれが初めて。
せっかくの記念日に何かしたいと思ったエレインは、お昼ごはんをフィオと一緒に作ることにしたのだ。
(やっぱりフィオは世界一可愛いわね)
溢れんばかりの満面の笑みに、心からそう思う。
リファルトと結婚する前も後も、それは変わらない。揺るぎない世界の真実だ。
「三人でお出かけできるのが、私、とっても嬉しいんです! 前回は一緒にいけませんでしたから」
前回というのは、リファルトと街中へ出かけたときのことを指すのだろう。
あのときはフィオの発案であったにもかかわらず、当のフィオは来なかった。
大切な用事があると言っていたが、今にして思えば嘘のような気がする。
エレインとリファルトを二人きりにするため、気を遣ってくれたのだと思う。
(まったく、なんて出来た子なのかしらね)
ご褒美として、フィオの頭をナデナデする。
「今日は楽しい一日にしましょうね!」
「はい!」
顔を見合わせた二人は、互いに大きな笑顔になった。
和気あいあいとした雰囲気で、昼食作りを進めていく。
デルドロア公爵邸より、馬車を走らせること数時間。
止まった馬車の中から、エレイン、リファルト、フィオの三人が降りていく。
三人を迎えたのは、広大な湖だった。
目の前に広がる光景に、エレインとフィオは感嘆の声を漏らす。
水は透き通っており、水底まではっきりと見渡すことができる。
水面に太陽の光が反射して、キラキラと光輝いている。
幻想的で、なんとも美しい光景だった。
「二人とも、ここを気に入ってくれたようだな。良かった」
感動している二人を見たリファルトが、小さな微笑みを浮かべる。
今日のピクニックの場を選んだのはリファルトだった。
ピクニックに行こう、という話になったとき、『それなら良い場所を知っている』と提案してくれたのだ。
「静かで落ち着いた場所ですね。リラックスにはもってこいの、とても素敵なところです」
周囲に人影は見当たらない。
聞こえてくる音といえば、穏やかな風が草木を揺らす音だけだった。
「学生時代の親友が教えてくれた、とっておきの場所なんだ」
リファルトが湖を見つめる。
その瞳はどこか遠くて、そして、とても優しい。
彼ににとってここの湖は、よほど大切で特別な場所なのだろう。
(ありがとうございます)
そんな思い入れのある場所を紹介してくれたことが、エレインは嬉しかった。
「昼にしようか。せっかく二人が作ってくれたんだ。早く食べてみたい」
弾んだ声でそう言ったリファルトが、湖の近くにシートを敷いていく。
いつもより動きにキレある。
(私たちが作ったお弁当を、それほどまでに楽しみにしてくれているのかしら。なんだか可愛いわね)
フィオも同じことを思ったのだろう。
エレインとフィオは、そっくりな顔でクスリと笑った。
敷かれたシートの上に、三人は腰を下ろす。
「では、いただくとしよう」
サンドイッチに手を伸ばしたリファルトは、パクリ。
瞬間、瞳を大きく見開いた。
「美味い……! 本当に美味いな、これは……!」
噛みしめるような言葉には、ありありと気持ちがこもっていた。
どうやら、大成功のようだ。
エレインとフィオは笑顔でハイタッチ。
美味しいと言ってもらえたことを、表に出して喜ぶ。
「朝早くから、フィオがいっぱい頑張ってくれたんですよ! 褒めてあげてください!」
「そうか。よくやったな。偉いぞ、フィオ」
手を伸ばしたリファルトが、フィオの頭を優しく撫でた。
フィオは嬉しそうに笑った。
頭上に浮かぶ眩しい太陽なんて目じゃないくらいに光り輝いている、とても可愛いらしい笑顔だ。
(家族団らんって、きっとこういうことを言うのね)
流れる温かな雰囲気に、エレインはリラックスしていく。
しかしここで、予想外の事態。
フィオの頭を撫でていたリファルトの手が、今度はエレインの方へと向いたのだ。
「エレインもよくやったな。ありがとう」
エレインの頭に手を乗せたリファルトは、そのまま優しく撫で始める。
雷に打たれたかのように、エレインの背中がビクンと跳ねる。
まさか自分まで撫でられるとは思ってもいなかった。完全に油断していた。
(うぅ……)
大きくて温かいリファルトの手。
その手に撫でられているエレインは、とてつもない安心感を感じていた。いつまでもこうしていて欲しい。
けれど、感じているのはそれだけじゃない。
安心感と同じくらいに、羞恥の心も感じているのだ。
人前で撫でられているところを見られる――しかもその相手は、フィオときた。
恥ずかしいったらありはしない。穴があったら入りたい気分だ。
嬉しいと恥ずかしい――二つの感情を同時に感じているエレインは、どうすればいいのか分からなくなってしまう。
唯一出来ることといえば、顔を赤くすることだけだった。
「三人で来られて本当に良かった。今日は記念すべき日だ」
嬉しそうに口にしたリファルトは、エレインを撫で続けている。
手を止める気配は微塵も感じられない。
それを見たフィオは、「ラブラブです!」と嬉しそうに笑った。
それからしばらくの間。
エレインは撫でられっぱなしとなっていた。
妹の尻ぬぐいをするために奴隷として公爵家に売り飛ばされた私~待っていたのは悲惨な運命……ではなく、公爵家当主とその愛娘と過ごす幸せな生活でした~ 夏芽空 @7natsume23
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