第11話 ショウさんのマイルーム?がすごすぎます!!

 「ねぇクロエ」

 「はい、ご主人様」

 

 酒場のアルバイトからの帰り道。

 

 「ショウさんのマイルームに誘われたんだけど、どうやって行くのかな?」

 「それはですね、ショウさんからもらった『フレンドカード』を扉横の挿し込み口に挿して、ドアノッカーを叩けばいいですよ」

 

 2か月前、ショウさんとフレンドになった後「ごめん、忘れてたわ」とか言われて受け取ったカードを使うらしい。

 わたしのフレンドカードもその後に作ってショウさんに渡してある。

 

 酒場からマイルームまで徒歩10分くらい歩き、いつもは自分の鍵で開けている扉の前に立つ。

 

 「ここです。この挿し込み口にフレンドカードを挿してください」

 「って、こんなの言われなきゃわかんないよ」

 

 クロエが指したのはドアノブの少し上の左側、ちょうどカードが挿し込める程度の細い穴。

 酒場で使ってる『黒板型タブレット』と言い、どうにかして現代技術をファンタジーに隠すか?ってのがありありと見える。

 ……の割には衣装もライドパートナーも何でもアリなんだよね。

 

 そのすごくわかりづらい挿し込み口にショウさんのフレンドカードを挿してドアノッカーを叩くと、しばらくしてガチャリと言う音と共に扉が開く。

 

 「おじゃましまー……すっ!?」

 

 扉から中に入ると上へと昇る階段があった。

かがり火程の明かりで照らされた階段を昇り切った先にも扉があり、その扉を開けて一歩踏み出すと足元は石畳、目の前には鉄柵状の大きな門が開かれ、向こうにそびえる大きな三階建ての洋風な屋敷、何より驚いたのは頭上に広がる夜空。

 

 「なんじゃーこりゃー!!」

 

 まさかの『扉から室内に入ったつもりが、いつの間にか屋外に立っていた……何を言ってるのかわからねーと思うが……』状態。

 戸惑いながらも門をくぐり、あたりを見回しながら屋敷の玄関まで進む。

 

 「はぁー、すごいですねぇご主人様」

 

 あまりの風景に、クロエも感嘆の声を漏らす中、玄関に取り付けられている獅子のドアノッカーを叩くと扉が奥へと向かって開かれる。

 

 「いらっしゃいませご友人様方、お待ちしておりました。」

 

 広いエントランスホールでわたしとクロエを出迎えたのは、執事服を着て片眼鏡をかけた目つきの鋭い白髪の老執事。

 赤絨毯の脇には10名ほどのメイドが並んでいる。

 

 「我が主、ショウ様が部屋でお待ちです。ご案内致します。」

 

 執事さんを先頭に赤絨毯を進み、その先にある階段を昇る。

 二階にあがってから壁伝いに歩き、一つの部屋の前で立ち止まる。

 

 「旦那様、ご友人様方をお連れしました。」

 「ええ、通してちょうだい」

 

 部屋の中からの返事に応え、執事が扉を開けて入室を促す。

 んん?旦那様?

 

 「どうぞ、お入りください」

 

 部屋は貴族の執務室をイメージするような内装になっていて、中央に膝くらいの高さの応接台、その両脇には黒いソファーが置かれていて、奥には木製の高級そうな執務机。

 執務机には、両肘をついて手を組んでいるショウさん。ソファーにはもう一人見知った顔、屋敷の雰囲気に合わせた貴族風の服装をしているけど、他はリアルと寸分違わない男爵さんの姿。

 

 「ありがとうアルフォンス、下がっていいわ」

 「はっ!」

 

 ショウさんが執事に退室を促すと執事は部屋の外から扉を閉めた。

 

 「どうだ驚いただろ?ここまで徹底的に『貴族風のお屋敷』を演出するヤツはショウちゃん以外見たことねぇぜ」

 「そりゃあねぇ、結構ジュエル使ったもの。男爵のパートナー達と同じくらいかしら」

 

 ショウさんは執務机から立ち上がり、ソファーへと移動する。

 

 「アナタたちもどうぞ座って」

 「はい、失礼します」

 

 促されるまま、わたしとクロエもソファーに腰掛ける。

 

 「いいわよ、そんな畏まらなくて。いつもの普通でいいわ、普通で」

 

 そうは言ってもこの雰囲気、なかなか落ち着かない。

 ショウさんと男爵さんが雰囲気に合った貴族風の衣装に対し、今日のわたしは通勤用で使ってる町娘風スタイルのワンピースでクロエはメイド服。

 とても場違いな所に来ちゃった感満載である。

 

 「だからワシの部屋でと言っただろ。イズミちゃんカチコチじゃねぇか」

 「男爵のマイルームはないわー。意味不明な上に腹筋崩壊モノよ?それにあたしのマイルームならみんなで集まってパーティだってできるし」

 

 このお屋敷を『マイルーム』と称するのは違和感ありまくるのは気のせいでしょうか。

 腹筋崩壊モノの意味不明なマイルームと言うのもどんなものか気になるとこでもあるけど。

 

 「男爵さんのマイルームはどんな感じなんですか?」

 「ああ、うーむ……どう言えばいいのか、まっ来てみればわかる!!」

 「そうね、あまりに意味不明すぎて言葉じゃ表現できないわ」

 

 男爵本人が説明できないほどの意味不明なのはホントどんな感じなんだろ。

 

 「ギルドのアジトがこういう話するのに最適なんだが、ギルメンじゃなきゃ入れねぇしなぁ」

 「そう言うのもあって、こんな感じのマイルームにしたのよ?ギルメン以外の同盟ギルドとかとの会合にも使えるしね」

 

 うん、まぁ確かに会合とかパーティとかで使うのはすっごく合ってるお屋敷だと思う。

 格調高すぎて大体のプレイヤーには敷居が高すぎる、というだけで。

 

 「ところでショウさん」

 「何かしら?」

 

 わたしはさっき感じた違和感をショウさんに聞いてみた。

 

 「アルフォンスさん?執事さんが『旦那様』って呼んでたのは?」

 「あ、気になっちゃった?ショウは男の子よ。かわいいでしょ?」

 

 間髪入れずにショウさんが立ち上がり、両手を腰に当ててドヤ顔で言い放つ。

 鼻息も荒くて「ふんすふんす」と聞こえるような勢いだ。

 

 「あたしってさ、かわいい美少年好きで最初はホントに理想の美少年っぽく作ってたんだけどね、かわいい服も好きだからショウでかわいい服着てるうちに色々とイタズラしたくなっちゃってね、SF未来世界のエステで胸をちょいちょいと服に合わせたり骨格とか体つきも服に合わせてみたりなんかしちゃったり声も高めに調整したりしてね。でも性転換までするのはちょっと違うかなー?って思ってそこは男の子のままね。でもホントいいわよね?アバターを好きに作れるし、かわいい服もいっぱいあるし言うことないわ。だけどパートナーはね、ちょっと調べて考えないとダメだったし、それでオススメの暗殺者タイプで渋い老執事にしたんだけど、ホントはパートナーもメイドタイプの美少年が良かったのよね。暗殺者タイプにすると寡黙で目つきも鋭くなっちゃうしでちょっと違うのよねー。それでねそれでね」

 

 と、きゃぴきゃぴとはしゃぎながら早口で延々と語る。

 なんかこれ、スイッチ入っちゃったかな?

 

 「ショウちゃんはな、美少年のことになると話が止まんねぇんだよ」

 

 なおも語り続けているショウさんに、男爵さんも少し呆れ気味。

 と言うか、男爵さんは慣れてるのかな?

 

 「ほれほれショウちゃん、わかったからそろそろ本題に入らんか?」

 「あっと、そうだねそうだね」

 「えっと、本題ってどんなお話ですか?」

 

 一呼吸置いて、男爵さんが身を乗り出す。

 

 「イズミちゃん、ワシのギルドに入ってくれないか?」

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