ロールプレイ〜繰り返す綺羅星の残滓〜【ケイとシン】

三日月未来(みかづきみらい)

綺羅星の残滓

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 患者の呟きに、ポニーテールの女医が背伸びしながら白いハイヒールの踵を鳴らし窓に寄って話し掛けた。


「また変な夢の続きを見たの」

「懐かしい街の風景が広がっていて、気付くと同じ建物から空を眺めていた」


 女医は診察室の白いカーテンを開けて患者に言った。

「こんな空かしら」

「・・・・・・ 」


 女医が窓を大きく開けて患者は息を呑んだ。

 夢と同じ風景が目の前に広がっている。




 妻の恵子が魘されている夫の進一を揺り起こす。


「シン、どうしたの」

「ケイ、これ夢の続き」


「そうよ、シンの夢の中にいるわ」


 進一は恵子の言葉に混乱を隠せない。


「シンと私は迷い混んでしまったのよ。あの夜、綺羅星を見た時」

「そんな」


「夢と現実の狭間があるのね」

「じゃあ、俺とケイは何処にいるの」


「ここが現実で、現実と思い込んでいた世界が虚構だったのよ」

「今、あそこに見える綺羅星はなに」


「あれは水の惑星地球よ。私たちの先祖の星ね」


 進一は恵子の言葉に頭の整理が追いつかないでいた。

 過去と未来が逆さまになった気分だった。


 進一は時間を巻き戻して整理を試みた。

 いつも繰り返す同じ夢、女医と患者、夢の中の夢、綺羅星と水の惑星地球。


 進一は再び寝息を立て眠りに落ちた。




「ここは何処、ケイ」

「シン、ここは光の世界よ」


 進一と恵子はそれぞれ光の繭に包まれていた。二人は意識だけで会話している。


 キラキラ輝く球体の光の繭が空間に無数浮いていることに気付く。

恵子の意識と会話出来た健一の目の前には眩い光が溢れていたが、恵子の姿が見えない。


「ケイ、何処にいるの」

「シンも何処にいるの。見えないわ」


 その時、二人の無意識が別の声を捉えていた。


「中間世界の神じゃ。ここは魂の広場じゃから転生するまで、魂は光の繭の中におる決まりなんじゃ。肉体は存在せん」


「じゃあ神さま、魂は光なんですか」

「そう言うことになる。次の転生で9回目になる。同じ夢にも慣れたじゃろう」


「じゃあ、あの夢は、転生前のロールプレイですか」

「綺羅星に願いを掛けるのじゃ。夢の残滓に答えが見つかるじゃろう」


 神さまは二人にヒントを与え消えた。



 進一は恵子に再び揺り起こされ目覚めて驚く。

「今、何時」

「朝の9時よ」


「遅刻する」

「今日は創立記念日で会社はお休みでしょう」


 進一はほっとして、眠りに落ちた。


「あの夢を見たのは、これで9回目だったが、神さまは9回目の転生と言っていた」


 進一は眠りながら寝言を繰り返している。




 白装束の着物姿の元アイドルの恵子が進一の遺影の前で正座しながら言った。


「9回目の転生は、私とあなたの双子が決まっているわね・・・・・・ 」


 翡翠の数珠が仏壇から落ちて乾いた音が無人の室内に響いた。

 坊主頭の進一の遺影の横で元アイドル時代のピクシーカットの恵子の写真が微笑んでいる。


 二人の遺影の額縁が不自然に傾いて寄り添って見えた瞬間、三毛猫が2匹入り込み遺影に向かって激しく鳴いた。




 青い制服の清掃人が数人、二人の部屋をあとにして呟く。

「最近、若い人の突然死多くねえ」

「くわばらだね」


「あの部屋のやばい感じの遺影、どうした」

「あれーー 怖いから放置したよ。やばいからね・・・・・・ 」





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