第3話 思っていた大人、年食った私
子供のころ、まだうちの家庭が崩壊していないころ。
父親は遅い時間にウイスキーを、それは美味しそうにたしなんでいた。
父親の仕事はとある新聞の記者?
朝早く夜の遅い仕事だった。
私が一緒に暮らしていたのは10歳までだったので、仕事の休みが火曜日だった父親とはあまり遊んでもらった記憶がない。
だから正直、子供心に恐い印象があったし、会話をした覚えもほとんど私の記憶には残されていない。
でもたまに10時くらいに帰宅するようなときは、かろうじて起きていた私はちらりとお酒を飲みご機嫌な父親を見ることがあった。
当然私だって小さい頃は一応普通の感性を持っていたはずだ。
だから自分の父親に興味はあった。
いつの日かそんな風に階段の陰から見ていた父親と目が合い、手招きされたことがあった。
びくりと肩が跳ねたことを覚えている。
まあ、ビビっていた。
「まだ寝ないのか」
「う、うん」
「…こっちに来なさい」
「…」
何故か呼ばれ父親の前に座る。
母親はお勝手でつまみなどを作っていた。
「学校慣れたか」
「う、うん」
「そうか」
確か寒川に引っ越したばかりの頃だったと思う。
何気にちゃんと会話したのはあれが最後だった。
二言三言。
たったそれだけのコミュニケーション。
そしておもむろにウイスキーを流し込む父親。
「…うまい」
「…ゴクリ」
今思えば。
きっと父親は私とも会話をしたかったのだと思う。
自分の性格を振り返ればわかるが、正直我が一族は少しうざい性格をしている。
承認欲求が強いくせに奥手で恥ずかしがりや。
さらには人見知り。
まあ、マジでめんどうくさい性格なのだ。
「もう遅い。早く寝なさい」
「う、うん。…おやすみなさい」
「おやすみ」
たったそれだけ。
仲の良い人には饒舌な父だったらしいが。
慣れていない息子に対してはそっけない父親だった。
※※※※※
今の私はあの時の父親の年齢を超えている。
子供心に恐さのあった父親。
まあ昭和の時代だ。
今とはだいぶ世の中も変わっていた。
しかしふと思う。
あの頃自分の中にあった『おとな像』
そして今の自分。
余りにも乖離が過ぎるのではないのだろうか?
まあ誰しもがそうらしいが。
(誰しもは言い過ぎカモ…何しろ私には友人と呼べるものが少ないのです)
当時小学生だった私が思う50代の男性。
メチャクチャ大人だった。
で。
今の自分。
恐ろしくガキのままだ。
そして何より。
父親がおいしそうにたしなんでいたウイスキーを含むアルコール類。
私はいまだに美味しいと感じたことがない。
人生?
経験?
何もかもが足りない私。
良い悪いはともかく。
私はいつまでも、あの頃の父親にはなれないのだと最近感じております。
ああ。
格好良い大人。
憧れますね!!
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