『好きになること』の、その逆

向夏夜なくの

タイトルなんて、つけたくない話

あの夢を見たのは、これで9回目だった。


クラスで気になっている男の子が、クラスメイトの女子に告白をする夢。男の子の告白相手は毎回違っていて、9回目にして遂に私が告白された。


全て夢の中の話なのだけど、告白されただけあって、今日はちょっと気分が良い。


授業中、その彼がいつもより視界に入る。


もしも、彼とお付き合い出来たとして。合唱部の私は、サッカー部の彼と釣り合うのだろうか。サッカー部の男子は、やっぱりバレー部やバスケ部の女子がお似合いだと思うのですよ。


――まあ、告白されれば付き合ってあげない事も無いけど。


じゃなくて。ごめん。

私、強がりました。


彼から告白して欲しいです!

実は、ずっと待ってます!



お昼休み。何かご利益ごりやくがあると思って、学校の募金箱に十円玉を一枚入れてみる。


──募金の神様、今朝の夢を正夢まさゆめにして下さい!

──心よりお願いします。何卒なにとぞ


何でも良いから、何か起きて!



◇◆◇



普段、授業後はすぐ合唱部に行くけれど、今日は掲示委員の活動がある。部活に行く前にポスターをいくつも貼らなきゃならない。


黙々と、画鋲がびょうで壁にめていく。


思い出すのは、やはり今朝の夢だ。ベタで良いから、「上まで手が届かないだろ、俺がポスター貼ってやるよ」って言われたい。


──!!


そんなことを思っていたら、本当に彼が現れた!

いつ見ても、横顔がカッコいい。


これは募金の効果だね。

募金こそ正義。募金こそ神。


――え、来た。近づいて来たよ!!


彼がすぐ隣に居ると思いきや、肩をトントンされた。急にドキドキが止まらない。


――この世の全てに、ありがとう!


「なあ、今、ちょっと良いか」


うん。めっちゃ良いよ!

でも、内心を表には出さない。これが大事。


「用件は何?聞くだけ聞いても良いけど?」


うわー!頼む、告白して!

カモン。プリーズ。愛してる!


「突然で悪いんだが。俺と付き合ってくれないか」


よっしゃーーーー!

しゃー!オラオラオラァ!!!


おっと、待て待て。まだ笑わない。

答えを即答しちゃダメで、心に余裕を持って泳がせる。これも大事。


冗談で、今朝の夢について聞いてみる。


「ねえ、風の噂で聞いたんだけど。君って、クラスの女子に告白しまくってるってホント?私が9人目だったりして笑」


彼はニヤニヤと半笑いしながら言う。


「え?何で知ってんの?女子の情報網、怖!」


――は?

――はああ!?!??!!?


――この、病気の猿め!!!


その瞬間。

私の中の彼像が無残にも崩れ落ちて、腐り果てて、ゲリラ豪雨が降って、綺麗さっぱり流れていった。跡形もなく。


…………あれ?


笑える程一瞬で、彼のことを好きじゃなくなっている。


これは失恋なのか?

なんだコレ?


蛙化現象とはまさに、このことなのだろう。大きなため息を一つしてから、先程まで好きだったコイツに言う。


「君には二つの選択肢があります。一つは、私の持っている画鋲に刺されること。もう一つは、自ら進んでゴミ箱に入って、燃えるゴミになること」

「第三の選択肢は無いのかよ」

「あるよ。もう一つは、画鋲で穴を開けられられた後に燃えるゴミになること。正直言うとね、さっさと視界から消えて欲しいです」


すると、目の前の人間は、うつむいてどこかに行ってしまった。


――ねえ、募金の神様。


百円募金したら、運命変えてくれますか?



結局、私一人でポスターを貼っている。まるで壁を殴るかのように、画鋲を留める指先に力が入って仕方が無い。


あーあ。どうせなら彼にポスター貼りを丸投げすれば良かった。


「私って、男を見る目が無いのかな……」


なんでだろう。

とても早く部活に行きたい。


今日の合唱練習は、とても大きな声が出せそうな気がする。

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『好きになること』の、その逆 向夏夜なくの @kanaya_nakuno

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