カロリーはあるよ夢だけど~千切りキャベツは免罪符ではありません!~

Akira Clementi

第1話

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 きっかけは、先月友人に誘われて行った居酒屋だ。そこは豚肉料理を専門としているようで、メニューのほとんどが豚肉だった。


 せっかくならばと店の名物だという角煮を二人分頼んだらとんでもない山盛りが出きたのだが、これがまあ美味いのなんの。甘辛い汁がしみ込んだ艶々テカテカの大きな角煮はとろとろで、とにかく酒に合う。


 肉は飲み物だったかというほどするする喉を通っていく角煮についてきたのは、これまた山盛りの千切りキャベツだ。角煮に千切りキャベツと最初は首を傾げたのだが、食べ始めて理解した。

 濃厚な甘辛い汁と、とろりとした肉の油。それらでこってりとした口の中を、千切りキャベツが爽やかにしてくれる。


 こってり角煮。

 爽やかキャベツ。

 こってり角煮。

 ビール。

 こってり角煮。

 爽やかキャベツ。


 まあ止まるわけがない。これでもかと食べた。


 角煮の味がどうしても忘れられず、あの日以来もう9回もあの角煮を食べる夢を見てしまっていた。


 美味いものの夢を繰り返し見て困るのは、私がバクという魔物であるからだ。

 バクは姿こそ人型だが、魂は非常に夢に近い性質である。そんなだから、私たちバクは眠っている間に夢の中に溶け込んでしまうことも少なくない。

 そしてそんな状態での夢は、バクにとって現実に等しい。


 そう、私はもう9回も寝ている間に角煮を食べている。


 真夜中に、腹いっぱい。


 まだ暗い部屋でベッドに横たわったまま口元をぬぐえば、今夜もしっかり角煮の油分がついてしまっている。やってしまったと思う反面、美味いもので満腹になった幸せを感じているのだから、なんとも情けない。


 ただでさえ深夜の食事は太りやすいというのに、角煮パーティーをしまくっていて太らないわけがない。最近頬に肉がついてきたのか、突っ張っている気がする。私も男なので背がある分急激にぽっちゃりしてきたわけではないのだが、こんな生活を続けていたらいつかまんまるになってしまう。


 よくない。とてもよくない。


 今度あの夢を見たら、角煮の量を減らして千切りキャベツの量を増やそう。野菜なら大丈夫だと思う。うむ、いい作戦だと思う。


 新たな決意を胸に、私は寝直すのだった。

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