[総ルビ]異世界辺境村スモーレルでスローライフ

滝川海老郎

こんばんは、こんにちは。

こちらは総（そう）ルビ版（ばん）となっています。

通常版（つうじょうばん）は↓の通（とお）りです。

https://kakuyomu.jp/works/16817139556121282149

●1. 転生（てんせい）の記憶（きおく）

　俺（おれ）はブランダン十（じゅっ）歳（さい）。苗字（みょうじ）は無（な）いらしい。

　村（むら）の中（なか）を走（はし）り回（まわ）っていた帰（かえ）り、石（いし）に躓（つまず）いて転（ころ）んで頭（あたま）を打（う）った。

「うおおお、いってええええ！！」

　その瞬間（しゅんかん）、すべてを思（おも）い出（だ）した。

　星（ほし）の名前（なまえ）は地球（ちきゅう）、国（くに）は日本（にほん）。高校（こうこう）卒業（そつぎょう）からの引（ひ）きこもり歴（れき）五（ご）年（ねん）の二四（にじゅうよん）歳（さい）。

　趣味（しゅみ）はPCとスマホ、無料（むりょう）ゲームと実質（じっしつ）無料（むりょう）のネット小説（しょうせつ）。

　家（いえ）とコンビニと近所（きんじょ）のパトロールが日課（にっか）。引（ひ）きこもりといいつつ、太陽（たいよう）には当（あ）たる生活（せいかつ）。

　俺（おれ）は狭（せま）い個室（こしつ）の中（なか）から広（ひろ）い異世界（いせかい）を想像（そうぞう）して、妄想（もうそう）して、そしてスローライフを夢見（ゆめみ）ていた。

　そのため色々（いろいろ）な知識（ちしき）を読（よ）み漁（あさ）ったり、よくあるマヨネーズの作（つく）り方（かた）を調（しら）べたり、ちょっとそういうことにハマっていた。

　庭（にわ）に生（は）えている猫（ねこ）じゃらしを収穫（しゅうかく）しているところまでは記憶（きおく）にあるがその後（あと）は思（おも）い出（だ）せない。

　女神（めがみ）様（さま）と会（あ）い転生（てんせい）の話（はなし）をした。俺（おれ）は原因（げんいん）不明（ふめい）だけど死（し）んだらしい。ユニークスキル「器用貧乏（きようびんぼう）」を取得（しゅとく）した。なんでもできるけど特（とく）に優（すぐ）れたことはできない、そんなスキルだった。

　普通（ふつう）なら頭（あたま）がおかしくなったと思（おも）うかもしれない。でもはっきりと思（おも）い出（だ）せた。

　日本語（にほんご）もこの世界（せかい）の言語（げんご）、厳密（げんみつ）にいうならこの地域（ちいき）の言語（げんご）、マールラ語（ご）も分（わ）かる。

　大丈夫（だいじょうぶ）。ちゃんと現在（げんざい）の主人格（しゅじんかく）も残（のこ）ってる。ただ過去（かこ）の記憶（きおく）が甦（よみがえ）っただけだ。前（まえ）の自分（じぶん）に乗（の）っ取（と）られたりもしていない。

「ちょっと、ブラン大丈夫（だいじょうぶ）？」

「う、うん……、まぁなんとか」

「ほんと？　なんか変（へん）な顔（かお）してたけど、そんなに痛（いた）かった？　頭（あたま）とか打（う）ってない？」

「打（う）ったけど大丈夫（だいじょうぶ）」

「大丈夫（だいじょうぶ）ならいいけど、しっかりしてよねっ、よしよし」

　この子（こ）はドロシー、ザ・異世界（いせかい）での定番（ていばん）種族（しゅぞく）のエルフで俺（おれ）と同（おな）じ十（じゅっ）歳（さい）。

　ドロシーは心配（しんぱい）しながら俺（おれ）の頭（あたま）を撫（な）でてくれる。

　くすぐったいけど、ちょっぴりうれしい。

　元（もと）の世界（せかい）では女（おんな）の子（こ）と触（ふ）れ合（あ）う機会（きかい）なんて一（いち）年（ねん）にいち日（ひ）すら無（な）かった。

　たんこぶはできていないようだ。

　まだ小（ちい）さいけど、顔（かお）はびっくりするほど可愛（かわい）い。可憐（かれん）な感（かん）じ。

　このド田舎（いなか）というか国（こく）の中（なか）で一番（いちばん）の辺境（へんきょう）の村（むら）にいるのに純血（じゅんけつ）のエルフの血（ち）は争（あらそ）えないらしい。

　ドロシーは美少女（びしょうじょ）で金髪（きんぱつ）碧眼（へきがん）。まだ十（じゅっ）歳（さい）だから胸（むね）はぺったんこだ。将来（しょうらい）に期待（きたい）しよう。

　髪（かみ）は伸（の）ばしてて肩（かた）よりちょっと長（なが）いくらいのストレートだ。

　この村（むら）にはもう一人（ひとり）の女（おんな）の子（こ）リズと合（あ）わせて三人（さんにん）だけの子供（こども）たち。

　リズも同（おな）じくたぶん十歳（じゅっさい）ぐらい。背丈（せたけ）もドロシーと同（おな）じくらい。

　明（あか）るい赤茶色（あかちゃいろ）の髪（かみ）の毛（け）を首（くび）にかかるかどうかぐらいまで伸（の）ばしてる。

　猫耳（ねこみみ）族（ぞく）なので、耳（みみ）は頭（あたま）の上（うえ）に生（は）えてて、あと長（なが）いしっぽも生（は）えている。

　丸顔（まるがお）で可愛（かわい）い顔（かお）をしている。ひげとかω（オメガ）みたいに割（わ）れたりはしていない。

　村（むら）に家（いえ）は三軒（さんげん）。俺（おれ）んちと、ドロシー親子（おやこ）と、おばばとリズの家（いえ）だけしかない。

　村（むら）というか「スモーレル地区（ちく）」といい、いわゆる集落（しゅうらく）というやつだった。

　今（いま）は、ドロシーの父（とう）ちゃんとうちの父（とう）ちゃんが農作業（のうさぎょう）の合間（あいま）に四軒（よんけん）目（め）を建築（けんちく）中（ちゅう）だった。

　家（いえ）が建（た）ったら住民（じゅうみん）を募集（ぼしゅう）するらしいよ。

　開拓（かいたく）村（むら）であり、近（ちか）くのちゃんとした村（むら）から半日（はんにち）の距離（きょり）歩（ある）いた山（やま）の麓（ふもと）にある。

　少（すこ）し下（くだ）れば川（かわ）が流（なが）れていて、村（むら）の横（よこ）には沢（さわ）が流（なが）れている。井戸（いど）は無（な）い。

　あとは三（さん）世帯（せたい）分（ぶん）の小（ちい）さな傾斜面（けいしゃめん）の畑（はたけ）があるだけだ。

「この石（いし）ころめ」

　俺（おれ）は何（なん）となく躓（つまず）いた石（いし）を拾（ひろ）って眺（なが）めてみる。普通（ふつう）の石（いし）だ。

　結局（けっきょく）、何（なに）にするでもなく石（いし）は庭（にわ）に転（ころ）がしておいた。

　家（いえ）に帰（かえ）って、父（とう）ちゃんと麦（むぎ）ワラを編（あ）んで袋（ふくろ）にする内職（ないしょく）をして待（ま）つ。

　母（かあ）ちゃん、ナターシャが部屋（へや）の隅（すみ）で、薪（まき）を燃（も）やしながら、スープを煮込（にこ）んでいた。

「おーい、ご飯（はん）できたわよ」

「はーい」

　畑（はたけ）は主（おも）に小麦（こむぎ）で、他（ほか）の野菜（やさい）を申（もう）し訳（わけ）ない程度（ていど）に育（そだ）てている。

　だから俺（おれ）んちは貧乏（びんぼう）で、いつも小麦（こむぎ）の薄焼（うすや）きパンと野菜（やさい）と肉（にく）の煮込（にこ）んだ塩味（しおあじ）のスープばっかり食（た）べている。

　美味（おい）しいといえば、それなりに美味（おい）しい。

　肉（にく）は父（とう）ちゃんが山（やま）で仕留（しと）めてきたイノシシ肉（にく）を乾（かわ）かしたものだ。

　薄焼（うすや）きパンは、いわゆる白（しろ）パンよりも発酵（はっこう）が悪（わる）くて固（かた）いので、丸（まる）くするんじゃなくて薄（うす）くガレットみたいにして食（た）べる。

　ナン、トルティーヤみたいな感（かん）じといえばそんな感（かん）じでもあると思（おも）う。

　異世界（いせかい）日本（にほん）の記憶（きおく）が甦（よみがえ）った今（いま）、今（いま）までの生活（せいかつ）とくに食生活（しょくせいかつ）は貧（まず）しかったんだ。

　ずっとそうだったから、そんなものだと思（おも）ってた。

　味（あじ）も塩（しお）と肉（にく）と野菜（やさい）の出汁（だし）ぐらいしかなかったけど、もっとおいしい料理（りょうり）がたくさんあるのを思（おも）い出（だ）してしまった。

　こうなりゃ、自力（じりき）で地球（ちきゅう）の知識（ちしき）を応用（おうよう）して、美味（おい）しい食生活（しょくせいかつ）をなんとしても、したい。

「ごちそうさま」

　そうして、すぐに寝（ね）る時間（じかん）になった。

　布団（ふとん）を被（かぶ）って考（かんが）える。

　美味（おい）しい、ごはんが食（た）べたい。

　まずは記憶（きおく）が戻（もど）ったのでスキルについて考（かんが）える。

　ユニークスキル「器用貧乏（きようびんぼう）」。何（なに）ができるかと言（い）うと、とりあえずアイテムボックスは使（つか）えることが分（わ）かった。

　これは大（おお）きい。十（じゅっ）歳（さい）児（じ）が背負（せお）ったり手（て）に持（も）てる荷物（にもつ）の量（りょう）には限界（げんかい）がある。おそらく器用貧乏（きようびんぼう）なので最大（さいだい）容量（ようりょう）とかに制限（せいげん）があるのだろうけど、無（な）いよりずっといい。

　とりあえずは、当面（とうめん）はこのことは秘密（ひみつ）にしようと思（おも）う。アイテムボックスというものがあるなんて、話題（わだい）にすらなったことが無（な）いのでレアだと思（おも）う。

　基本（きほん）属性（ぞくせい）魔法（まほう）とかも使（つか）えそうな気配（けはい）がある。

　魔力（まりょく）感知（かんち）、体（からだ）に魔力（まりょく）があるのを感（かん）じる。今（いま）までは、ほとんど何（なに）も考（かんが）えないで生（い）きてきたようなものだったけど、前（まえ）から魔力（まりょく）そのものは感（かん）じていた。ただ当（あ）たり前（まえ）すぎて気（き）にしていなかった。