九回目の自画像
11316
九回目の自画像
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
夢の中で私は、いつも同じ部屋に一人で立っている。部屋には窓がなく、唯一の光源は、中央に置かれた古びたランプだけ。ランプの光は弱々しく、隅々まで照らすことはない。壁はひび割れ、剥がれかけた壁紙が不気味な模様を描いている。床には埃が積もり、足を踏み出すたびに微かな音が響く。
夢の中で私は、いつもと変わらず、中央に置かれたランプの前に立つ。ランプの光は弱々しいながらも、私を温かく包み込む。
私はランプの光をじっと見つめ、その中に何かを見つけようとするが、ランプの光はただそこにあるだけで、何も映し出してはくれない。
夢の中で私は、いつもと変わらず、隅に置かれた古びた鏡の前に立つ。
鏡には私の姿が映っているが、それは私ではない。鏡に映っているのは、見知らぬ誰かの姿だ。その人物は私に背を向け、何も語りかけてはこない。
9回目の夢を見た翌朝、私は決意した。この夢に隠された意味を解き明かさなければ、私は永遠にこの悪夢に囚われたままだろう。私は古びたランプと鏡、そしてひび割れた壁紙を探し求め、ついに夢とそっくりな部屋を見つけ出した。
部屋に入り、ランプを灯した瞬間、全身を悪寒が駆け抜けた。
夢で見た光景が、寸分違わず目の前に広がっている。壁のひび割れ、床の埃、そして、あの古びた鏡。
私は、まるで操り人形のように、夢で何度も繰り返した行動をなぞり始めた。一歩、また一歩と、鏡に近づく。そして、ついに鏡の前に立った時、魂が引き剥がされるような眩暈に襲われた。
鏡に映っていたのは、見慣れたはずの自分の顔ではなかった。そこにいたのは、過去の私が置き去りにしてきた、弱く、傷ついた私の姿だったのだ。
私は、過去のトラウマという名の怪物から、目を背け、逃げ続けていた。夢は、その怪物が潜む暗闇へと私を誘い、向き合うことを強いていたのだ。
私は、鏡の中の自分自身に語りかけた。
「もう逃げない。過去の私、ありがとう。」
すると、鏡の中の私は微笑み、ゆっくりと消えていった。
部屋の光が強くなり、窓のない部屋に朝日が差し込む。私は夢から解放されたことを確信した。
あの夢を見ることは、もう二度とないだろう。
九回目の自画像 11316 @181136
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます