KAC2025 あの夢は何を意味していたのだろうか?

かざみまゆみ

あの夢は何を意味しているのだろうか?

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 家を出て一人暮らし始めた頃から同じ夢を見る。

 明晰夢というものだろうか?

 常に同じ場所から始まり、同じ場所で終わる。

 ときに自分目線、ときに上空からの目線。

 人なのか、怪異なのか。それは常に水の底から始まるのだった……。


 ○△□○△□○△□


 ブクブクブクブク。


 水泡が水面に向かって登っていく。

 それは冷たい水の底でじっと水面を見つめていた。

 水面を通して見える明るい光。

 恐らくあれは外の明かりなのだろう。


 ブクブクブクブク。


 また大きな泡が立ち上っていく。

 アレはいつからこの水の底にいるのだろうか。

 水の中でもシッカリと開かれた眼は光を見つめている。

 その目は光の先に何を見ているのだろうか?


 ワーワーワー。


 大きな声を上げながら迫る村人たち。

 その手にはナタや鎌が握られていた。

 火の手は屋敷のそばまで迫っていた。

 その者の前には同じ顔をした童が二人。


 ワーワーワー。


 やがてその声も遠ざかっていった。

 鼻を突くような焼け焦げた匂い。

 火事場の跡には大勢の骸が転がっている。

 その多くに刃物で切られたような傷跡があった。


 ホーホーホー。


 深い闇の中、フクロウの声だけが響いている。

 真っ暗な部屋の中、大勢が身を寄せ合っていた。

 誰もが押し黙って、息を殺している。

 馬の走る音がするたび、皆に緊張が走るのが分かった。


 ホーホーホー。


 不意に障子戸が大きく開けられる。

 あちこちから小さな悲鳴が漏れた。

 月の光が座敷の奥まで届く。

 数人の男たちが分け入って一人の子供を連れて行く。


 ザワザワザワ。


 池のほとりには大勢の大人と同じ顔をした童が二人。

 その二人の間を通り子供は船へと乗せられる。

 そして男たちは子供を大きな池へと放り込んだ。

 子供は浮かぶこと無くそのまま池の底へと沈んでいった。


 ザワザワザワ。


 ○△□○△□○△□


 その夢はいつもその場面で終わる。

 今日もそこで目が覚めた。

 いや、起こされたと言ったほうがいいだろう。


「楓、大丈夫? うなされていたよ」


 小夜子が私の顔を心配そうに覗き込んでいた。


 ――そうだ、今日は小夜子の部屋でお泊り会をしていたんだった。


 私は布団の上で上半身を起こすと小夜子の顔をまじまじと見つめた。

 彼女の綺麗な顔が不安げに曇っている。


「ごめんごめん、ちょっと怖い夢見てたみたい。もう大丈夫だよ」

「そう? だったらいいけど……。明日は早いからちゃんと寝よ!」


 そう、明日は小夜子と二人で舞浜の夢の国に行く予定だった。

 田舎育ちの私にとっても初めての体験だ。

 そうだね、と頷き返すと私は布団をかぶった。


 暗闇の中、二つの声が聞こえた。


「もう少し……、もう少し……」

「大丈夫、守ってあげる……」


 私は聞こえないふりをして寝返りを打った。

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