ネットにエロ小説を投稿していた俺の話

真坂/shinsaka

第1話『死んだ……」


俺は週末に部屋の片付けをすることに決めた。


昼間から窓を開け、少しずつ溜まっていた雑誌やフィギュアの箱を整理し始める。


昔から集めていたものが、いつの間にか部屋を占領してしまっていた。


部屋がアニメショップ状態だ。


「いい加減整理しないとな……」


独り言を呟きながら、俺机の上に積み上げられた未開封のフィギュアたちを眺める。


棚の中も同じように溢れ返っており、床にも積み上げられている。


大学を卒業してからというものフィギュアを買うことは少なくなったが、どうしても手放せずにいた。


その中でも、特に愛着を持っていたフィギュアが一つあった。



セレナ・ユーフォリア。


赤いコートを翻す女騎士。胸の脇にあるシワが最高に良い。


剣を構えた凛々しい表情。塗装ではなく、自然光で自然と胸の下に影ができる。


胸がでかい。



俺が大切にしていたフィギュアだった。


買った当時、作品のことはよく知らなかった。いわゆる造形買いだ。


俺は秋葉原の店で初めて目にしたとき、即決で買ったことハッキリと憶えている。


価格は少し高かったが、それでも買う価値があると感じた。


「久しぶりに出してみるか」


俺は棚からそのフィギュアを手に取った――その瞬間。


ツルッ


「うわっ!」


手が滑った。


バキッ!


嫌な音が響く。


恐る恐る床を見下ろすと、そこには首がポキリと折れたセレナが転がっていた。


「死んだ……」


俺は思わず息を呑み、震える手でフィギュアを拾い上げる。


首の部分が完全に外れ、接着剤で修復しようにも、微妙にズレてしまいそうだった。


何とか直せるかもしれないが、壊れてしまったことで、今まで抱いていた愛着にヒビが入るのを感じた。


「これ、もう一度手に入るのかな……」


ふと、セレナと対になっている魔導士イナ・ウィスティリアのことを考える。


彼女のフィギュアは未だに手に入れられていない。


後に俺はセレナとイナの登場するアニメ、『戦うより食べたい!勇者と魔王が織りなすグルメな異世界平和記』、通称『#平和飯』にどっぷりハマっていた。


いつか並べて飾ろうと考えていたが、その夢はもう叶わないのかもしれない。


イナも同様にレア化し、プレ値がついていた。


俺はスマホを取り出し、フリマアプリを開く。


「値段がつくなら、売ってしまおう」


勢いに任せ、壊れたセレナを出品する。

「難アリ(首もげ)っと……」


――出品完了。


俺はため息をつきながら、画面を見つめていた。



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