第34話 シュロノワールの結界

 「さあ、早く強い奴連れて着て頂戴!」

バニラテ・スターバックスは狂気に近い純粋な眼差しで、村人たちに指示を出した。

「早くしないと、ここの人達1人ずつ殺していくことになるんだけど……」


村人たちは逃げ出した。

この場に居たら真っ先にこの魔物に殺されると理解したからだ。


「あらあら、逃げちゃった……」

「お任せください、結界魔法サハラン」

悪魔が村全体を結界で覆った、この村から誰も逃がさないつもりなのだ。

「流石悪魔ね、シュロノワール」

「お褒めの言葉感謝いたします。この結界がある限り村人は出る事は出来ません。もっとも、噂の強い方がいらっしゃればこの結界を壊すことも可能でしょうが」

「その時はそいつが噂の人ってわけだしね! じゃあ、気長に散歩しながら探しに行きましょう。」

「かしこまりました」


バニラテは元聖剣を持ち直した。

聖剣エルドリット、昔の白く輝いていた栄光は消え、今では邪剣として生まれ変わってしまった。

バニラテはその大剣を使って、お頭だったゴラス・マゴットを見て腰を抜かしていた男を真っ二つに切断した。それを見て族たちはまた恐怖に駆られる。


「な!? なんで俺たちを襲うんだよ!?」

「言ったでしょ? 散歩するって」

バニラテは彼らの言っている事が理解できていないようだ。

「いやいや、俺たちは味方だろ! 敵は村の連中で……」

「何言ってんのよ、いつからアンタたちの仲間になったのよ」

バニラテはイライラしながら答えた。

「だって、そこの悪魔と契約して……」

族たちはシュロノワールの方を見て言った。

どうやら悪魔と契約してリュウを殺しに来たらしい。

「勿論、契約は実行します。ただ、バニラテ様はあなた方の仲間になった訳では無いとおっしゃっているのです。」

シュロノワールは落ち着いて伝えるが、族たちは納得がいかない様だ。

「だからって俺たちが殺される理由は」



 人さらいの族たちは1人残らずいなくなった。

皆雑なミンチ肉に変わってしまった。

「ギャーギャーうるさい奴らだったわ!」

「はい、しかしよかったのですか? 1人ずつ殺していった方が面白いのでは?」

「まあまあ、いいでしょう。人間はまだたくさんいる事だし、あと私は殺人鬼じゃないの、強いやつと戦いだけなの!」

わがままな女みたいに騒ぐこの女に俺は呆れてしまった。

「よく言うぜ、人殺すの好きじゃなきゃ人間殺しヒューマンスレイヤーなんて称号得る事なんて出来ないだろうよ。」

「貴様、ロード何故ここに?」

シュロノワールが俺に敵意を向ける

「あら、ロード久しぶりね」

白々しくバニラテが言う、今日俺の事殺したくせに


「ロードが居るって事はやっぱりこの村にいるのね。邪魔しないでね、あなたの存在って転生者達の最初のサポートをすることでしょ? もしかして私が殺そうとしている子がそうなの? 転生したばかりなのかしら?」

バニラテは俺に聞いてきた。「ああそうだ」と言った後、続けて「だが10年以上経ったから手助けはしない」と伝えると、バニラテは邪魔なく戦えるとわかり大喜びし始めた。

「そうなのね、ならよかった~」

「ああ、そうだよ……」

「ふん、魔王様の友人だか何だか知らんが、私はお前が嫌いだ! 魔王様のお許しがあればすぐにでも殺してやるところだ」

「オー怖い」

まったく、だったらこの女のリードをちゃんと持っとけって話だ。

「バニラテ係がよ」

俺はボソッと愚痴をこぼした。

「あ、何か言ったか?」

「別に」



 バニラテとシュロノワールは我が物顔で村を闊歩する。

村人たちはガタガタと怯えながら自分の家に籠っている。

「全然出てこないわね……」

「そうですね」

「そろそろ、何人か切っていきますか……」

バニラテは邪剣を持ち構える。


すまないな、村の連中よ、

実はリュウ達一家は結界が張られる前に逃げるように指示していた。

助け出せたのは、リュウとマキ、その両親と弟。お腹の子を含めて6人だけ

村の連中の数と比較するとあまりにも少ない、俺は自分の都合を優先したのだ。


 「ドーン」

バニラテが豪快に家を壊して中にいた幼い子を手に取った。

「お願いします! その子だけはその子だけは、どうか!」

バニラテは、母親の言葉など聞く耳を持たず、その子を手にかけようとした。



「ギャアアアアス」

村の外れの山でドラゴンの咆哮が鳴り響いた。

バニラテは幼子を投げ捨て、ドラゴンが咆哮した方に身体を向けた。

「あそこか……」



「リュウどうしてだ……」

せっかく逃げることが出来たのに

「ロード、アンタが逃がしたのね」

「……」

「いいわ、結果良ければすべてよし!」


バニラテはシュロノワールの結界をぶっ壊しリュウの元へと向かって行った。





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