第26話 吹き飛べ
大山リュウが牢獄にいる間、俺はマキの様子を見に行った。
彼女は母親の手伝いをしているようだ。昼食の炊きあがったばかりの米は、ホクホクと食欲をそそる香りを放っている。
「おい、マキ!」
「うわっ、びっくりしたロードさんじゃないですか、どうしたのですかリュウさんと一緒じゃないのですか?」
「あ、その様子だとリュウの事気付いていないな……」
「何か、リュウさんにあったのですか?」
俺はリュウが人間になれるようになったこと、朝に出現した変態がそのリュウだということを伝えた。彼女は「ええ!?」と驚いた。
「わ、私、リュウさんに酷い態度を……」
「そりゃ、スッポンポンだったんだ無理もない……」
「わ、私家族以外の男性のアソコみたの初めてでした」
マキは朝見た光景を思い出し、今更顔を真っ赤にし始めた。
マキは家族と一緒に昼食を食べ始める。
「マキ、今日はあのドラゴンの姿が見当たらない様だが……」
マキに話しかけたのは父親だ、人さらいに娘が攫われそうになってから心配で心配で仕方がないのだ。
その父親が、いつもなら「今日もあのドラゴンに会いに行くのか?」としつこく聞いて来るのに今回はドラゴンの心配をしている。あのドラゴンなら今朝捕まえましたよ!、何て言えないマキは「さあ、大空を飛び回っているんじゃない?」と嘘を付いた。
「えー、ドラゴンに会いたかった~」
毎日ドラゴンの事を楽しそうに話す姉の話を聞いていた弟は残念がっている。
「くら、危険なんだから行っちゃダメです。」
母親はそんな弟を叱った。母親の危険というワードが引っ掛かったのか、マキは「私の命の恩人に対してそんなこと言わないで!」と反抗した。
「そうは言っても、ドラゴンはドラゴン、危険生物よ」
「だから、命の恩人だって」
「命の恩人でも人間を一瞬で殺せる危険な存在なのよ」
母親は
「なによ、怖いからって私にお礼に行かせたくせに!」
「私は反対しましたよ、村の人達がうるさいから……。それに貴方だって最初怖がっていたじゃない」
「そ、それはそうだったけど、でも会って話せば分かるわ!」
親子喧嘩により、せっかくの食事が冷めてしまった。
父親は「まあまあ……」と仲裁に入るが、マキは無理やりご飯を流し込んだ後家を飛び出してしまった。
牢獄で質素な昼食を出されたリュウは1人で寂しく食べていた。
しばらくすると空いた食器を回収しに村の男が現れた。
「なあ、おれはいつここから出られるんだ?」
リュウが男に聞くが、「お前が危険じゃないと証明出来たらな」と一点張りだ。
魔王の誕生といい、人さらいといい、ここ最近は物騒な事件や犯罪が増えているため村の者達はピリピリしているのだ。ギルドカードみたいな身分証明するものがあれば話は変わって来るのだが、そんなものリュウが持っている筈がない。
こんな小さい牢獄なんてやろうとすれば簡単に壊せるが、大山リュウにそんなことできる行動力はない。
「あ、マキちゃん!」
「どうしたの? 危ないよ!」
牢屋に1人の女性が不機嫌そうに向かってくる。
先程まで母親と喧嘩していたマキだ。彼女は牢獄の前で座り込んで、「彼と話がしたいです。2人っきりにして下さい」と男たちに言う。男たちは「危険だ」と反対したが、マキが弱いパンチを当てて必死に訴えてくるので、しぶしぶ男たちは出て行った。
「5分だけだぞ、牢屋の側に近づかないこと、変な真似は絶対しないこと」
「分かりましたから、早く行ってください!」
「この男ってもしかしてマキちゃんの……これ?」
男の1人がニヤニヤしながらハンドサインを使ってマキに聞いて来る。
マキはその男に対して強めのパンチを食らわせた。
「あ、あの……」
「サイテーです」
「え?!」
「いきなり裸何て何考えているのですか、リュウさん!」
「マキ! おれの正体しっているんだな!」
「家でロードさんに聞きました。嬉しさのあまり自分が裸だという事を忘れて、村に来てしまったって……ぷぷっ、アハハハ! なんですかそれ!?」
マキは大笑いした。
先程までの不機嫌な彼女は何処かへ吹き飛んでいったようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます