第18話 新たな勇者アデリナ・グランハート

 ドット―ルとカリーナが魔王の元へ向かった後、俺はバラバラになったアデリナ・グランハートの遺体現場の側に立っていた。しばらくすると、バラバラになっている肉片達が光輝いた。

光の粒子になっていき、その粒子は一か所に集まっていく、血の一片残さず粒子は集まり人の形になり、最後にピンッと耳が尖った後、白い綺麗な肌色になってこの世界に戻った。


「よう、結構時間が掛かったな! お帰り、そして第二の人生おめでとう。」


そう、アデリナは復活したのだ。

スキル【二股の尻尾ふたまたのしっぽ】が発動したのだ。

彼女自身は一体何が起こったのかさっぱり分かっていない様だ。かなりレアなスキルだし、転生者以外は自分の生まれ持ったスキルを知る機会なんて、ほとんど無いわけだから。アデリナも今まで自分の隠れ持っていた才能が死んで発揮されるとは思っても見なかっただろう。おれはこっそり見たから知っていたが。


「良かったじゃないか、復活して」

「……ああ、まさか私にこのような力があったなんて!」

「だが、もうこれでその力は使えない。そのスキルは自分の寿命が延びるわけでもないから気を付けな。って長命種のエルフにはいらない説明か?」

「ありがとう、つまりもう次は無いって事だな。 そうだ! カイたちは? カイとシュメル、カリーナは無事なのか?」

アデリナはカイたちの事を思い出し、俺の体をゆすって来る。「カイたちならあそこに転がっているぜ」と言って、羽を伸ばして教えた。



 アデリナはカイとシュメルの惨殺された場に行き、絶望の顔を浮かべた後自身の無力さを嘆いた。カリーナと違い、冒険者であるこの女は悲惨な場は慣れている。それでもこの惨劇は耐えがたいモノなのだろう。女は地面に何度も頭を打ち付けて自傷行為を行っている。


「おいおいおい、折角の二度目の人生台無しにする気か?」

「五月蝿い! 貴様はこの2人を助けなかったのか?」

「そんなこと言われても、俺はお前らの仲間じゃない。勘違いするなよ」

「なんだと!」

「何度も、何度でも言うが、俺は観測者であり観察者、この世界の行く末を見る者だ。まあ、面白い方に事が進むように色々と手を回したり、設定を変えたりもするがね!」

「まさか!? 魔王軍の幹部を連れてきたのは!?」


アデリナが俺に向けて矢を構える。

「ちょっと待てよ、今回は何もやってない、ウァプラにチクったのはお仲間のカリーナだよ。あいつがお前たちを売ったんだよ!」

アデリナは「なんだと……」と信じられないようだった。そこに俺は追い打ちをしかける。

「ほら、それが証拠にこの場にいないだろ?!」

「そ、それは人質として捕らえられたわけで……」

「人質? 目的の勇者を殺せたのに?」

「あ、いや、国と、そうだリフャルド家と交渉するための……」

「あいつは落ちこぼれだ。あいつ1人の為に国は動かん。」


最後の決め手に俺は秘密をばらす。

「それにアイツ一人で何処かへ行くこと多かっただろ? その時に伝えてたんだよ、お前らが勇者パーティ組んだ時から既に始まってたんだよ。初めから裏切っていたんだよ! あの女は国もお前たちも」

俺が真実を言った瞬間、「言うな!」と大声で感情を爆発させるアデリナ。年長者で大人しいこの女がここまで爆発するとは面白い。


 アデリナはその後、「フーフー」と息を切らしながら聞いた。

「カリーナは何処にいる?」

「聞いてどうするつもりだ?」

「真相を聞く、何か訳あって裏切ったに違いない。」

「もし、私欲のために裏切っていたのなら?」

「……殺す」


アデリナの目は本物だ。確実にやるという目、復習者の目だ。


「いいね、気に入ったよ!」

「お前に気に入られる気は無い。」

「まあまあ、こうなったのも、お前がたまたま珍しいスキルを持っていたのも、今まで他の才能がなかったのも、何かの運命。アデリナ・グランハート、お前に力をやるよ。」


俺はアデリナの頭上にステータスを出した。

そして書き換えた。


【名前】 アデリナ・グランハート 【種族】 森人

【年齢】70【職業】・弓使い・幻術師・暗殺者【レベル】30

【称号】・勇者の証・弓の達人・復讐者

【HP】300【MP】90

【攻撃力】40【防御力】20【魔力】5

【素早さ】30【魅力】6【運】30

【スキル】・神の加護・成長率2倍・魔法全属性習得可

     ・気配遮断・逃げの煙・錯乱の煙


こんな所か、コイツがまた魔王幹部に殺されては困るので暗殺者のスキル【気配遮断】も覚えさせた。


「さあ、行ってこい。新たな勇者アデリナ・グランハート」


アデリナは何も言わず、次の町へ向かって行った。


「さて、やりたいことはやった。面白いことになりそうだ。 それにいいタイミングで、また転生者が現れた様だ。」

俺は次の転生者の元まで向かった。次はどんな奴かと期待しながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る