第3話 チュートリアルの開始

 太陽は沈み、代わりに月明かりがこのディレスティア王国に光を与える。勿論、昼間と比べれば暗い。闇の世界は犯罪者と魔物たちの舞台場、だから人間たちは灯りを欲する。殺されないためではない恐怖で震えないために……、今日は特に騒がしい夜だ、もうすぐ良い子は眠る時間帯だと言うのにまだ騒がしい……。ガルダ城だけではない、国全体が今宵は活気にあふれている。それは何故かって? 勇者が召喚されたからだ。


 勇者が召喚された吉報は、瞬く間にディレスティア王国全土に広まった。この瞬間を国中、世界中の人間達が待ち望んでいたのだ、羽目を外し嬉しくなるのも無理はない。


 ガルダ城の大広間に沢山の人間たちが集まっている。どいつもこいつも高そうな服を着てやがる。貴族共に芸人、それから記者、鳥耳にもわかるほど良い歌声をBGMに、勇者時折カイときおりかいを歓迎する準備は万端だ。

国王ラファド・バンレットが舞台の中央に立ち、召喚成功の報告、今回の立役者フェルドレ・リフャルド達召喚士の紹介、そして本日の主役である勇者の名を呼んだ。時折カイときおりかいは、こう言った場には慣れていないのか照れくさそうに現れた。


 勇者時折カイときおりかいが席に座ると、待ってましたと宴が始まった。豪華な料理、芸、この世界の文化を知らないカイにはさぞ新鮮だろう。しかし、城外の奴らに見られたら嫌味を言われるぞ。

 

「フフフ、このような楽しい宴会久しぶりです。」

勇者の隣で、もうすぐつぼみが開きそうな少女がクスっと笑った。彼女の名はミレア・バンレット、国王ラファド・バンレットの一人娘だ。白い肌に華奢な体躯の彼女はこの国のアイドル的な存在。あと数年したら絶世の美女になることだろう。その美少女の笑顔には勇者時折カイときおりかいもデレデレだ。ロリコンやろうと言ってやりたかったが、残念ながらそれは出来ない。何故なら俺は遠くから見ているから、あの国王に嫌われているため、城内の窓の端から勇者を見守っているのだ。


 夜の宴会は終っても、城外の町はまだ活気に溢れている。その為、今宵は城から見る景色がとても綺麗だ。勇者の奴にも見せてやりたいが、それどころじゃないだろう。この世界に来ていきなり持ち上げられて、魔王を打ち取ってくれと言われたのだから。

勇者は宴会が終わった後、城の客室で休んでいることだろう。旅立ちは早くても明日になる。


 確か……

 ここら辺だったか……


ほの暗く明るい部屋が1つ、俺はその窓に向かってバードストライクを食らわせた。部屋に居る勇者様は驚きのあまり飛び上がった。こんなんでこの先大丈夫なのかと少し不安になったが、そんなことは今後の成長に期待することにしよう。

時折カイときおりかいは、窓をを開けて俺を部屋に入れてくれた。もし入れなかったらその時点で見捨てたとこだ、俺はやさしいこの男に改めて自己紹介をする。

「昼ぶりだな、俺の名は覚えているか? ……その顔は名前は憶えていないって感じだな、じゃあもう一度、俺の名はロードって言うんだ。わけあってお前みたいな転移者や転生者の手助けをしている。まあ、チュートリアルの案内する係って思ってくれて構わない。」

「は、はあ……。」

不思議そうにじろじろと見てくる時折カイときおりかいは、俺に対していろいろと思う事があるのだろう。例えば、

「し、質問良いか?」

「おうなんだ? 何で君は喋れるのかという質問なら、この世界が魔法とかあるファンタジーだからだ。なんで親切にしてくれるのって質問ならそれは答えられない。」

苦い顔をして言葉を詰まらせる少年、予想通りこの質問をするつもりだったのだろう。俺はいろんな奴らを見てきたからだいたい分かる。

「じゃあ、この世界の事について教えてくれないか? あの王様から魔王の存在とかは教えてくれたけど、魔法とかよく分かんなくて。」

「あの王様、魔法とかそういった基本的な事は教えてやらなかったのか……」

まあ、この世界において魔法とかは一般常識なんだ。当たり前に知っているもんだと思って教えるのを忘れたのだろう。

「いいぜ、軽く教えてやるよ……。チュートリアルの開始だな。」

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