004 オルタナティ部
第16話
小学四年生の時、くだらない理由のいじめがあった。名前がら行で始まる子とは遊ばないというものだった。
私の名前はるるなので、ターゲットになった。それまで普通に話していた子も、私のことを避けた。
もっとも、このいじめは本来私に向けられたものではなく、
そもそも私は首謀者の子と、ほぼ
私は自分の名前をそんなに好んではいないが、フルネームは好きだ。
ら行とはいえ三番目、完全に巻き込まれた形の私だったが、正直いじめに関してあまり気にしていなかった。心底くだらないと思っていたからだ。
せっかくだからと私は机の上にジュニア小説を積み上げ、読書キャラに転じることにした。当時の私は眼鏡を掛け始めたばかりで、都合のいいキャラ変だった。
本を読むようになったら成績も上がるのではないかと
そんな感じで見事教室内で孤立した私だったが、例外的に一人、そんな状況の私に積極的に話しかけてくるようになった子がいた。
それが
ひとちゃんは当時、男女混合のグループにいて、そこから抜け出しては私の席にまでやって来て、「変なシールを見つけた」とか「面白い猫の描き方を発明した」とか、どうでもいいこと話して去っていくようになった。
繰り返し行われる一方的なひとちゃんの語りに、私もだんだんと期待して待つようになっていく。少しずつ
やがてひとちゃんと一緒に
……そう、私は物朗くんのことを、誰にも聞かれない心の中で物朗きゅんと呼んでいる。絶対に何があろうと本人にだけは知られたくない。
もし私の心を読める超能力者がいたら、どうかこのことは口外しないで欲しい。
物朗きゅんに対して、特段恋情を寄せているとか、そういうことではない。心の中でそう呼ぶようになったきっかけも、もう覚えてもいない他愛もないことだ。
だからどうか後生だから誰にも言わないでください。お願いします。
とにかく私たち三人は、もう長い付き合い離れることなくここまで来ている。ひとちゃんも物朗きゅんも二人とも家が近所だし、学校外でも仲良くしている。
転移者という特殊な立場になってしまったが、三人一緒ならばなんでも乗り越えられる気がする。
☆★☆★☆
「強制参加ではないからな? 決してパワハラではないからな? パワーでハラスメントはしていないからな?」
私とひとちゃんでがらくたをダンボール箱に箱詰めし、それを物朗きゅんが運んでいる中、
放課後、
扉の横に積み上げられたダンボール箱を見ながら、この前物朗きゅんの家で遊んだ引っ越しのゲームみたいに、荷物をぽんぽん投げられたらいいのに、なんて考える。
だいたい、このがらくたの物量はなんだ。おおよそ生徒会の備品とは思えない、用途さえわからない物品の数々が出てくるわ出てくるわ。
「先輩、この荷物どこに運ぶんですか?」
重そうなダンボール箱を抱えたまま、物朗きゅんが言った。
「部室に運ぶんだよ」
『あんたが主役』と書かれたたすきを着け、安っぽい三つ編みのカツラを被った市島先輩が返した。
どちらもがらくたの中にあったものだが、先輩のツインテールと三つ編みが重なって、髪型がごちゃごちゃして見ているだけで鬱陶しい。
「部室? 新しい生徒会室に移動するんじゃないんですか?」
「新しい生徒会室?」
市島先輩と八木先輩が、ぽかんと顔を見合わせる。
「もしかして、わたしたちが生徒会のメンバーだと本気で思ってたの?」
いつも生徒会室にいる市島先輩たちを、私はてっきり生徒会役員か何かだと思っていた。時々生徒会長みたいな偉そうな物言いをしていたし。特に市島先輩。
「この学校には生徒会がないから、勝手にここを使わせてもらってたんだけど、怒られちゃってさ。とりあえず移動場所を確保できたから、そちらに引っ越すんだよ」
市島先輩が言う。
生徒会がない? どういう意味だろう。
「生徒会がないって、どういう意味ですか?」
私が思ったのと同じことを、物朗きゅんが尋ねてくれた。物朗きゅんのこういうところが好きだ。
いや、好きって言ってもそういう意味ではなくて。そういう深い意味ではなくて。今言おうと思っていたことを、物朗きゅんは高い頻度で先に言ってくれる。そこに相性の良さを感じているという、ただそれだけのことだ。
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