匣庭高校オルタナティ部
水本グミ
001 イルカ
第1話
おしなべて目立つことのない、地味な陰キャ眼鏡野郎――
特段特筆に値しない、ごく平均的で普通のパーソナリティを持ち合わせた男――
それが俺、
共働きの両親と、年の離れた姉が一人。家族仲はまあ普通。
趣味は深夜ラジオの聴取、メールの投稿。特に『千年ウォークの闇のお茶会』という番組によくメールを送っていたが、この世界では放送されていない。
面白い事が好きだが、面白い人間だとは思わない。
……と、俺の自己紹介など、誰も興味はないだろう。
だからとりあえず、俺の身に起きた出来事をかいつまんで説明する。
中学卒業の日の帰り道、俺は一人で、いや独りで
いや独歩していた。
とにかく、俺は独りっきりで歩いていた。
クラスメートと照れ臭そうに笑い合うこともなく、気の合う仲間と肩を
陰キャ人生十五年、実に気楽なものである。我がことながら、いっそ、すがすがしささえ覚える。
思い返すまでもなくこれが俺の中学校での日常で、卒業式だからといって何も特別なことは起こらない。
俺はこのような人生が、ずっと続くものだと思っていたし、今日も家に帰れば親が何かご
そのように思っていた。
だが、俺の運命は一遍に一変した――
いつもより風が強かった。奇妙な音が鳴り響いていることにも、気づいていた。金属音のような、何か機械的な甲高い音――違和感の中、学校からの帰り道を歩いていた。
けれども俺には、異変を確かめ合うような友もおらず、なんたって独歩を続けていたわけだから、多少の薄気味悪さを感じつつも、なんらかの事情があるのだろうと歩みを止めることはなかった。
世界の事情など、俺にわかるわけがない。
そのように思っていた。
まさか世界が終わるわけでもあるまいに、と――
しかしそれは間違いだった。大間違いだった。
それから僅か一分も
俺が思い出せるのは――目に映るものすべてがゆっくりと
空は深く暗い色のグラデーションに支配され、周囲の音は次第に遠ざかった。
そして。
世界は唐突に
――それが俺の覚えているすべてで、そして、忘れていたすべてでもある。
☆★☆★☆
高校生になった俺は、中学時代と変わらぬ地味な学校生活をスタートさせた。
ほんの数日前まで俺は、自分が異世界への転移者だということに気づいていなかった。世界の
だが、じんわりと脳内に
あの世界は確かに終わりを迎えた。ならば、この世界は一体何なのだろうか。
俺は今、
見覚えのない家、知らない店の看板――だがそれは、元々俺が
あの世界が終わった時点で、俺はまだ中学生だった――正確には、中学生を終えたところだったのだ。
俺は元々、この高校に通う予定だったのだろうか。志望校だったのだろうか。どうも、その辺りの記憶がはっきりしない。
とにかく、気がつけば俺は高校生になり、入学式やクラス分けを経て、学校に通い続けた。当たり前のように、流されるように、特に何も疑問に思うこともなく。
しかし、思い出してしまったものは仕方がない。俺は慎重に、この世界での転移者としての生活を全うしようと決意した。
真っ当な高校生として、目立たぬように生きよう。
だって転移したからといって、この世界はぱっと見ほとんど何も前と変わっていないのだから。
ならば俺だって、自分を変えることのないよう地味にやり過ごすしかない。
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