第2話 後編

 私と氷澪はスケート場にやって来た。

 今は誰も居ないけど、昼間は歓声で湧いていた。


 私達は閉館までの間滑ることにした。

 先に氷上に降り立つ氷澪の背中を私は追う。


「お姉ちゃん、来て」


 氷澪は手を差し出す。

 しかし私は取ることができない。

 だって、私は滑れない。


「ダメだよ、氷澪。私なんかじゃ」

「上手く滑れなくてもいい。私はお姉ちゃんと滑りたい」


 氷澪はそう言ってくれた。

 目が輝いていて、本気になっている。

 何だか魂が揺さぶられると、私は手を伸ばしていた。


「本当にいいの? 私、ジャンプもできないんだよ」

「任せて、お姉ちゃん。私が、お姉ちゃんをエスコートするから」


 そう言うと、私は氷澪と手を繋いだ。

 その瞬間、氷澪は氷の舞台を滑り出す。

 私はとにかく転ばないように、氷澪の上を駆ける。


「お姉ちゃん、楽しい?」

「う、うん」

「私も楽しい。お姉ちゃんと滑るのが一番楽しい」


 氷澪の演技はいつもとはまた違った。

 普段から練習も観ていたけど、氷澪の演技は冷たい。氷のように洗練されていて、一つ一つが性格無比でとにかくクール。

 間違っても笑ったりしない。だからこそ、氷の舞台に降り立った妖精のようだった。


 でも今は違う。根本から違う。

 凄く楽しそうで笑みを浮かべている。

 私のせいでいつもの演技ができないのもしれないけど、そんなハンデものともしない。寧ろ、動きにハリがあり、氷澪の優美な体のラインが出ていた。


「氷澪、カッコいいよ」

「ありがとう。お姉ちゃん」


 こんなにも近くで観られるなんて夢にも思わなかった。

 私が去った後のスケートリンクで、氷澪は戦って来た。

 だけど今は私と氷澪だけ。二人だけが降り立った氷上の舞台は、人口の灯りで照らされる。


「氷澪、私楽しんでるかも」

「お姉ちゃんも?」

「うん。私も妖精になったみたい」

「お姉ちゃんは、ずっと私の目標で妖精だよ」


 そっか。何となく分かった気がする。

 上手く言葉にはできないけど、氷澪は私と同じだ。

 根本の更に根っこの部分。そこが同じだから、同じ感性でいられた。


「えっ!?」

「ここは、私とお姉ちゃんだけの舞台。プリマを踊るのは私達、妖精だけだよ」


 私達は妖精。

 火と氷の妖精。

 氷上を舞い踊る私達は、誰にも止められず、冷たいスポットライトを浴び、笑顔を振り撒いた。

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氷の舞台で双子は踊る 水定ゆう @mizusadayou

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