氷の舞台で双子は踊る
水定ゆう
第1話 前編
「優勝は、
「はい」
「この気持ち、誰に伝えたいですか?」
「お姉ちゃん」
私の双子の妹、氷澪はマイクを向けた記者の人に堂々と答えた。
カッコいいな思う反面、ぶっきらぼう過ぎて心配。
私は日に日に遠くなっていく妹の姿に、純粋なファンとして拍手を贈った。
私、
可愛い双子の妹で、名前は氷澪。
日本の女子フィギュアスケートで若手のホープと期待され、注目を集めている。
その実力は折り紙付きで、昔一度だけスケートをしたことがある私だけど、比べ物にならない程に優雅で繊細で綺麗。まるで妖精のようだった。
「はぁ」
そんな妹とは対照的で私には華がない。
顔は瓜二つでも性格は全然違う。
堂々としている氷澪が羨ましく思えてしまうくらい、私はひ弱でスケートなんてとてもじゃないけどできない。
「お姉ちゃん?」
そんな私を慕ってくれるのが氷澪だった。
今日も普段から仕事で家を空ける両親の代わりに、氷澪の演技を観に来た。
私はそれだけしかできないのに、氷澪は私に背中をチョコチョコ付いて回る。
「待った?」
「ううん。待ってないよ」
「本当? ねぇ、今日の演技どうだった?」
「凄く綺麗だったよ。でも、記者の方には愛想良くしようね」
「(むっ)お姉ちゃん以外の人に愛想良くしたくない」
ちょっと気難しい所があるけどそこが可愛い。そこが魅力だとは思うけど、私は一応姉として心配した。
「それよりもう遅いよね。帰ろ」
「お姉ちゃん」
「ん?」
氷澪は私の手を取る。
冷たい手、だけどシッカリと魂が伝わる。
「氷澪?」
「お姉ちゃん、もうスケートしないの?」
突飛なことを言われた。
確かに最初に始めたのは私だった。
だけどすぐに辞めてしまった。それもその筈、私には才能が無かった。そもそもまともに滑れなかった。
「うん。お姉ちゃん、滑るの得意じゃないから」
「それでも私はお姉ちゃんと一緒に……」
「ごめんね。お姉ちゃん、氷澪の思っているような、強い人じゃないんだ」
私は氷澪に尊敬されるような人間じゃない。
弱くて醜い、ちっぽけな臆病者。
だから変に期待されるのが怖かった。
優しくオブラートに包み遠慮すると、落胆したのか、氷澪は俯く。
「だったら……」
氷澪は覚悟を決めた声を出す。
何やらいつもと雰囲気が変わる。
寒空の下、氷澪の目が輝く。
「氷澪?」
「お姉ちゃん、付いてきて。まだ、滑れるから」
そう言うと、氷澪は私の手を引く。
力強く、同時に寂しそうに感じた私。
双子だからかな? 何となくだけど妹の考えていることが分かるような気がして、最後に聳え立つスケート場に足が伸びた。
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