氷の舞台で双子は踊る

水定ゆう

第1話 前編

「優勝は、羽根山氷澪はねやまひみさん、十五歳。堂々の金メダル獲得、おめでとうございます」

「はい」

「この気持ち、誰に伝えたいですか?」

「お姉ちゃん」


 私の双子の妹、氷澪はマイクを向けた記者の人に堂々と答えた。

 カッコいいな思う反面、ぶっきらぼう過ぎて心配。

 私は日に日に遠くなっていく妹の姿に、純粋なファンとして拍手を贈った。


 私、羽根山火菜はねやまひなには妹が居る。

 可愛い双子の妹で、名前は氷澪。

 日本の女子フィギュアスケートで若手のホープと期待され、注目を集めている。

 その実力は折り紙付きで、昔一度だけスケートをしたことがある私だけど、比べ物にならない程に優雅で繊細で綺麗。まるで妖精のようだった。


「はぁ」


 そんな妹とは対照的で私には華がない。

 顔は瓜二つでも性格は全然違う。

 堂々としている氷澪が羨ましく思えてしまうくらい、私はひ弱でスケートなんてとてもじゃないけどできない。


「お姉ちゃん?」


 そんな私を慕ってくれるのが氷澪だった。

 今日も普段から仕事で家を空ける両親の代わりに、氷澪の演技を観に来た。

 私はそれだけしかできないのに、氷澪は私に背中をチョコチョコ付いて回る。


「待った?」

「ううん。待ってないよ」

「本当? ねぇ、今日の演技どうだった?」

「凄く綺麗だったよ。でも、記者の方には愛想良くしようね」

「(むっ)お姉ちゃん以外の人に愛想良くしたくない」


 ちょっと気難しい所があるけどそこが可愛い。そこが魅力だとは思うけど、私は一応姉として心配した。


「それよりもう遅いよね。帰ろ」

「お姉ちゃん」

「ん?」


 氷澪は私の手を取る。

 冷たい手、だけどシッカリと魂が伝わる。


「氷澪?」

「お姉ちゃん、もうスケートしないの?」


 突飛なことを言われた。

 確かに最初に始めたのは私だった。

 だけどすぐに辞めてしまった。それもその筈、私には才能が無かった。そもそもまともに滑れなかった。


「うん。お姉ちゃん、滑るの得意じゃないから」

「それでも私はお姉ちゃんと一緒に……」

「ごめんね。お姉ちゃん、氷澪の思っているような、強い人じゃないんだ」


 私は氷澪に尊敬されるような人間じゃない。

 弱くて醜い、ちっぽけな臆病者。

 だから変に期待されるのが怖かった。

 優しくオブラートに包み遠慮すると、落胆したのか、氷澪は俯く。


「だったら……」


 氷澪は覚悟を決めた声を出す。

 何やらいつもと雰囲気が変わる。

 寒空の下、氷澪の目が輝く。


「氷澪?」

「お姉ちゃん、付いてきて。まだ、滑れるから」


 そう言うと、氷澪は私の手を引く。

 力強く、同時に寂しそうに感じた私。

 双子だからかな? 何となくだけど妹の考えていることが分かるような気がして、最後に聳え立つスケート場に足が伸びた。

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