第3話王家の禁書がある部屋に入った!?

ブラキオザウルスは草食系の中で巨体をを誇る種の一つ。

 他にも居るには居るが有名どころはやはり。




「ティラノサウルスだっ!!」


「な!」


「……ひっく」


 王子の発表に貴族らはなんだそれはと囁き合うが、知らないのだろう。

 恐竜愛好家もその名に聞き覚えはない。


 まさか、この男。


(王家の禁書がある部屋に入った!?)


 あの部屋には専門家が特大に危険な事項を記した書物がある。

 ハクアの時代よりも昔の人間が記したものなので翻訳にかなり時間がかかっていた。

 達筆な上に言い回しが今と違う。

 たしか、作業はまだ途中のはず。


 翻訳スキルを持つ専門家が膨大な資料を訳している最中だった。

 まさか、途中までしか訳していないからこそ、王子は人類史上最低最悪の引き金を引こうとしている?


 先ほど、王子が継いだ言葉に驚きすぎて碌に言葉を発せなかったのはハクアだけじゃなかった。

 王子の隣にいる略奪悪女も、恐怖にしゃっくりを引き起こした。


 彼女は王子によるとサンジョウというらしい。

 この中世に似た雰囲気に合わないから皆改名を一時的にするのだが、王子はどうやら改名をおすすめしなかったようだ。

 相変わらず気が利かない。


「王子、肉食恐竜を復活させるのはやめて下さい」


「僻みが今日は酷いぞ?」


 嬉しそうに醜く歪む優越感の塊に、拳を握る。


「王子、肉食恐竜を復活させるのをやめてください!」


 今の発言はこの唇からではなかった。


「は?おい、サンジョウヒトミ、今更何を言っている?」


「フルネームで呼ばれるとダサくなるのでやめてくださいって言いましたよね?」


 顔がもう、キレていた。


「女神から私は、海は嫌だから、ここは地に足がついているから大丈夫だって聞いたのでこの仕事を受けたんです」


 その必死の形相に王子は仰反る。


「どうしたんだ?お前は私に恐竜を羽化させるとあれだけアピールしてきたんだぞ」


「それとこれとは別だろうが!」


「ヒッ」


 遂に王子が立っていた場所からころんと落ちる。

 一段分だけだったから、たいして落ちてない。


「肉食恐竜の復活?何考えてるの?バカなの?消滅するんなら独りでしてよ!」


「しょ、消滅?なにをいってる?ティラノサウルスは王者なのだ。全ての恐竜達の上に君臨する。私の功績となれば今後この王国の発展と」


「発展どころか、滅びますよ」


 仄暗い空気の中、さらに加えられる内容に集まる貴族達はざわりと冷や汗が落ちる。


 それを気にすることなく、ハクアは固まり、成り行きを驚きで放置している王に対して発言した。


「王よ。今を持ってこの王子の継承権を剥奪し、速やかに間接、目、口、ありとあらゆる自由を封殺して下さい」


 王族の禁書がこの場でばら撒かれたのだ。


 知ってはいけないことだった。


「なんだと!貴様、たかだか女神に頼まれたただびとの癖をしてっ」


「だから、通訳の内容を軽んじたんですか?」


 静かに聞くと、その怒りの濃さに王子は言葉を閉じる。


「もう知られてしまったので、憧れに昇天する前にその幻想は偽物だと知ってもらいます」


 ハクアは専門家達の中で、再現度の高いスキルを持つものと合わせて作った恐竜がこの世界で暴れ回ったらというイフ作品を会場の超巨大スクリーンで放映した。


 阿鼻叫喚になろうと、誰もこの城から出さない。

 恨むのなら、ガセではない本物の情報を拡散させた王子と、簡単に入れてしまった王城のスカスカセキュリティにすれば良い。


 前々から草食獣だけではなく肉食恐竜を集めようとする貴族社会に釘を刺したかったのだ。

 天よりデカいデカいものを。

 そうじゃないと第二の王子が生まれかねない。


 ロードショウ後、王子が監禁されたのは言うまでもない。



 騒動がひと段落したあと。

 サンジョウと名乗っていた王子の浮気相手はひたすら謝り、己がこの世界を血に染める羽目になるところだったと土下座までした。


 見晴らしの良い庭にあるガボゼは、専門家達の為に常に解放されている。

 そこで飲む紅茶は最高級。

 舌が肥えて後々困りそう。


「どうなるかと思った」


 現代ですら、やつらを管理できずに後の世に知られる大事件として語られるのに、この世界で同じことが起こったら何も出来ず全滅するだろう。


 女神が現代人を選ぶのはそういう意味も理由もある。


「私、サメ映画を小さい頃に見て以来、海に近付けなくなって。今も無理なんです。船は乗れますが」


 サンジョウは告白する。


「分かる。私もホラー系とかパニック系を見たら怖くて暫く混同してしまうもん」


 ゾンビ映画とか、家族の安否をほんの少し気にしてしまう。

 リアリティのある舞台だと余計にね。


「まあ、それ系と決定的に違うのはその肉食恐竜が実在してるってところだけど」


 あれは空想だが、この世界では目の前にあって、復活と羽化を使用すれば地獄の出来上がりとなる。


「そうなんですよね、本当、羽化を誰にも知られずにやれと言われなくて助かりました」


 不穏の種は僅かでも残してはいけない。


 王族1人とて。


 もう少しで空に国を作りたくなるような世界になるところだった。

 翼のある生物も肉食なので今の所存在してない。

 知ったものが居たら騎乗したい者達がより集まり、復活などということが起こった時……。


 ぶるりと震える。


「貴方の羽化のスキルは草食恐竜に使ってあげて」


「はい!」


 ハクアやサンジョウ達はなにも言わずとも心を通じ合わせられる。

 王子が恐竜の名を叫んだ時のように。

 脳裏に場面は違えど、浮かんだのだ。




 それ、映画で見た!と。

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王子、肉食恐竜を復活させるのをやめてください! リーシャ @reesya

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