第22話

     燭台の灯が揺れ ゆらゆらと影をうごめかす。

     祭壇の前に 美しい薄紫の装束に繊細な金の

     装飾をほどこした ふたりがひざまずいていた。

     これは婚礼の儀式だ。


    (兄さまと、鈴花?)


     花嫁と思われる女人の横顔は 独特の化粧で判別が難しいが

     おそらく鈴花だ。

     だが その隣にひざまずくのは 見たこともない黒髪の若者。

     端整な面立ちだが あごは細く目元は鋭利で 冷たい印象だ。


    (兄さまじゃない……!?)


     *     *     *


 驚いて、目が覚めた。

(今の夢は……なに?)

 いつもの自分の部屋、自分の寝台。

 寝台に寄りかかるように一角獣が休んでいる。

「ネージュ……これも予知夢なの?」

 一角獣は答えない。

 頭を撫でる秋令の震える手に額を擦りつけ、青い瞳で見返すだけだ。

 巫女姫は予知夢以外の夢は見ない。秋令の夢に「ただの夢」などないのだ。

(でも、これってどういうこと?)

 もしかしたら鈴花に見えた花嫁は別人だったのかもしれない。

(そうよ。だって、鈴花は兄さまと結婚するんだもの)


 これまで秋令の予知夢はすべて、祭祀老の長瀬木に報告してきた。

 それが決まりというわけではないが、予知夢は神託だ。夢を見るのは巫女姫でも、それを解釈して郷長に進言するのは祭祀老の役目だ。

 秋令が幼かったころは月黄泉が代わりに報告していたが、ここ数年は秋令自身が長瀬木のもとへ通っていた。

 だが、この夢は何をどう報告すればいいのだろう。花嫁が鈴花でないとしたら、見知らぬふたりの婚礼を見ただけということになる。

(こんな曖昧な夢を聞かされたって、叔父さまも困るわよね)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る