神様たちはすぐ隣①イケメン転校生と夜空に浮かぶ

荒井瑞葉

第1話 森嶋神社と「おろち石」。

 わたしの家が代々継いでいる「森嶋神社」は、古くは鎌倉時代が起源だとかで。精霊でも住んでいそうな山の中にぽつんとある。通学には、村営のマイクロバスを使用してる。

 参拝の人なんかもちろんいません。


 それでも、毎朝六時から、わたしは境内の落ち葉を掃除してる。境内はとても広い。わたしは袴姿なので(現役女子高校生の袴姿ってなかなか尊いと思う!)ペットボトルも持っていない。


 朝6時半。いつもの時間。境内を掃き終えたら、境内から奥まったところにある「おろち様の宿る石」、通称「おろち石」に向かうんだ。


 大昔、麓の村を水害から救うために、滝に身を投じたという尊い女の人がいて、その人を「おろち様」として祀るようになったというお話。


 平べったいその石。神社のしきたりでは、毎朝、石の横にある沢の水を「おろち石」にかけないとならない。


 でもわたしは最近、おサボりを覚えたんだ。


「おろち石」は、わたし一人が腰掛けるのにちょうど良かった。

 水に濡れたら腰掛けられない。

 それに、今は「やること」があるの。


「おろち石」に座ると、袴の帯のところにこっそり入れていたスマホを取り出して、今日も「推し」の摂取。


 韓流アイドルの「ルシフェル」。

 彼らの「朝配信」の動画を生視聴。

 二週間前から始まったの。ちょうど朝6時半から配信があるの。


「ハロー。アンニョン。こんちは」

 わたしの推しのリイくんが、今日の朝当番だ! やったね! 

 リィくんが、少し寝癖っぽく仕上げた金色の髪で、画面の向こうで笑ってる。パジャマみたいなエメラルド色の服を着て、少しあどけない目をキラキラさせて、満面の笑顔。ほんと、いいよなあ。


 朝の清々しい風の中、「ルシフェル」の音楽が束の間、この神社に流れる。


 聴く人なんて、わたし以外にいない。

 だけど、時折、誰かが一緒に聴いてるような、なんとも暖かいくすぐったい気持ちになった。

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