ホルモン大好き!

元気モリ子

ホルモン大好き!

ホルモンは思っている倍火を通さないと怖い。

しかし通しても通しても見た目が変わらず、かと思えば急に炭になるので毎度たまげてしまう。


焼いている時も噛んでいる時も、「ここ!」という時が分かりづらいのだ。

いつまでも焼こうと思えば焼けてしまうし、噛もうと思えば噛めてしまう。

こちらの根気が試される。


煙立ち上る店内で、ミノを永遠焼いて、永遠噛みながら、私は食べ物の食べ頃について思いを馳せていた。



りんごやトマトはあからさまに赤くなり、こちらに「今です!」と律儀に教えてくれる。


そりゃ向こうも私たちに実を食べてもらって、糞をしてもらって、その種を広めてもらわないと困るので必死であろうが、私たちが色を認識できる生き物で、その食べ頃が図ったかのように色彩に出るというのは、実はかなり奇跡なのではないだろうか。


私たちは植物の策略にまんまと引っかかり、真っ赤な果実を見ては、「あら美味しそっ!」とかぶりついているのだ。


阿呆だ。


その点ホルモンは、私たちに食べられる筋合いがない。

食べてもらわんと困る事情がない。

そんな筋合いがないものを、私たちは勝手に焼いては、「食べ頃がわからん!」とほざいている。

かと思えば、くちゃくちゃと噛んで、今度は「飲み込み時がわからん!」とふくれている。

なんとワガママで愛らしい生き物であろうか。


ホルモンからすればたまったもんじゃない。



私は毎日「何にこんなに疲れているのか」というほど疲れている。

大したこともしていないくせに、頭を1ミリも使いたくない。

特に、衣食住に頭を使いたくない!という確かな心意気だけが一丁前にある。


ただ着て食って寝ていたい。

正直な話、死ななければ何でも良い。

スーパーでどの白菜が良い白菜だとか、きゅうりの棘がどうだとか、赤身の色がどうだとか、私にそんなことを見極めさせるな。


もっと考えるべきことは他にあるはずで、白菜の密度など見極めている暇は、人生にはない。


その点ホルモンである。

「今何の話?」となっていた方、聞いて驚け、私はまだ懲りずにホルモンの話をしている。


なぜ晩ごはんにホルモン焼肉を選んでしまったのか。

何を隠そう、私が食べたいと言ったからだ。


頭を使う。本当にイヤだ。

食べられるか否か、見極め続けなければならない。あまりに実技が多過ぎる。

食事だと言うのに、一時も気が抜けないというのはどういう魂胆か。

そもそも焼肉というのは、調理までさせられる上に値まで張る。

腹が立ってきた。



網の上でのたうち回るミノと、向こう岸に座るボヤけた友人の顔を交互に見ながら、猥談をする。


友人のおっぱいがどうだこうだという話に耳を貸しながら、目はのたうち回るミノを追い、脳内ではミノの食べ頃についてそろばんを弾く。


「…おん…おん」


「さては話聞いてないやろ!

モリ子貧乳やもんな!関係ないわな!」


おいおい、それとこれとは話が違う。

私の中のキムタクが待てと立ち上がった。

確かに相槌は疎かになっていたが、話はちゃんと聞いていたし、ミノだって育てていた。


「いやいやいや!聞いてるし!爆乳やし!」


慌てた私は、後生大事にしていたミノを咄嗟に口へ放り込み、ハイボールをグイッとやって、応戦した。


次の日、嘘みたいに腹を壊した。


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ホルモン大好き! 元気モリ子 @moriko0201

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