02




「名前は?」


「分かりません」


「オマエは何者だ?」


「分かりません」


「ここは何処だ?」


「分かりません」


「他に誰も居ないのか?」


「分かりません」


「元の世界に帰るには?」


「分かりません」


「記憶ーー無いの?」


「気がつけば、ここに居て……それまで何をしていたのかは、さっぱりです」




ーーと、まあ。




何も分からないことが分かった。


嘘か本当かは定かじゃないが、どうやらこの和服をスケベに着こなしたデカチチ女は記憶が無いようだ。


電車で寝過ごした結果、見知らぬ場所に辿り着き、宛もなくさ迷っていたら神社に着いて、お祈りしたら、その願いが叶った。


他の誰かに会えますようにーーって願ったけどさ。


マジでそれだけしか叶えてくれないとか。人に会った上での副次的な利点を求めてのお願いだったのに、俺と同じで何も知らない記憶喪失の人を出されても、お呼びじゃねーんだわってなってしまうが。


まあ、高望みし過ぎるのも贅沢な話か。棚から牡丹餅みたいなもんだし、一先ず願いを叶えてくださった(?)神様にはお礼を言うべき。サンキューな。



とはいえ、どうしたもんか。



「いつからここに?」


「分かりません。ずっと、長い間……ここに一人でおりました」


「どれぐらい?」


「さて……もう日を数えるのが飽きるぐらいでしょうか」


「……食料とかは?」


「不思議なことに腹も減らず、喉も乾かず、眠くもなりません」


「それは不思議だ」



やっぱり……ここはおそらく俺が元いた世界とは別の世界なんだろうと思う。


『異界』


そんな単語が脳裏を過ぎる。



「ここには何もありません。何も分からぬ私が一人、居るだけです」



謎は謎のまま深まるばかり、何も進展しない。


手詰まりか。


兎にも角にも、何とかして元の世界に帰りたいところではあるが、まるで何も分からない。


空腹を感じないらしいので餓死したりする心配は無さそうーーいや、その話を簡単に信じるのもアレか。眉唾な話だし。嘘をついている雰囲気は無いが、隠すのが上手くて、この女の話が全部、嘘。何らかの意図を持って俺を騙そうとしている可能性も捨てきれない。


俺を騙したところでーーとも思うが。



「ところで……私の方からも質問よろしいですか?」


「……ん?ああ、いいけど」



俺ばかりが彼女にあれこれ質問していた。


結局、何も分からなかったが……。


ここは俺もこの女の質問に答えてやるのが筋であろう。



「貴方は男の人……ですよね?」


「見ての通りな」


「ですよね。おち〇ちんは付いてますか?」


「…………」



…………。



……………………。



……………………んんん?



今なんて?



おちーーいや聞き間違いか?



「おち〇ちん付いてますよね?」



あっ、これ。聞き間違いじゃねーわ。



「そりゃ……付いてるけど……」


「そうですか!付いててよかったです!」



途端に表情をパーッと明るくするスケベ女。


外見通りのそういう奴ってこと?そういう奴ってことなんだろうな。じゃなかったら一発目の質問でこんなこと言い出さんだろうしな。



「急にナニ?」


「私はここでずっと一人でおりました。貴方の想像が及ばぬ程に長い長い間。ずっとここで一人でおりました」


「だから?」


「ここには何も無く。飢えることも無く、眠くもならず、死ぬこともない」


「それで?」


「暇でした。とてつもなく暇でした。とてもとても暇でした。暇で暇で仕方がありませんでした」


「その結果が?」


「だから私は日長一日、自慰行為に明け暮れていたのです」



絶句だよ。


つまりアレね。やることが無かったから、ずっとオ〇ニーしてたって事ね。一瞬、気持ちは分からんでもないとちょっと思ってしまったからタチが悪い。


それにしたってただのドスケベやないかい。



「(ピー)を(ピー)して(ピー)してる時は何も考える必要がなく、ただ(ピー)に没頭し、快楽に溺れられる。(ピー)に(ピー)が(ピー)なんてそれはもう(ピー)で(ピー)で(ピー)でなんです。(ピー)はとても素晴らしいものなのです」



はい。アウトアウト。


あー、もー、めちゃくちゃだよ。


伏字ばっかで何言ってるかさっぱり分からない。というか理解したくない。


その後もスケベ女はとてもじゃないがまともに描写すればBANされるであろう(ピー)事情を語るに語る。


それはまるで今まで溜め込んできたものを全てをぶち撒ける勢いだ。



「そして!今!私の目の前に想像では無い本物の(ピー)が現れたのです!さぁ!私と交わりましょうっ!」



あ、はい。



はぁはぁと息を荒らげて興奮冷めやまぬと言ったスケベ女。その様は大好物の特大ステーキを目の前にしたクソガキの如く。


今にも飛びかかられそう。


貴女、ヤベェ女さんですね?



よし。逃げるか。



「あっ……!?」



俺は脱兎のごとく。スケベ女に背を向けて全力ダッシュした。



「得体の知れない女と出会って速攻(ピー)なんて出来るかッ!バカがッ!」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る