復縁したいだなんて
remu
「元彼」
死んでも復縁したいだなんて思わない。そう思えるようになったのはいつだっけ。
元彼とは高校一年生の夏に付き合い初めて一年で別れた。別れを告げられたのは私の方で、元彼は清々しそうな、してやったりの顔で「別れよう」と言った。突然の事で混乱していた私の頭半分と、いつかこうなる予感がしていて冷静な私の頭半分が同居していた。口から出たのは「嫌だ、ダメなところは治すから」なんていうベタな言葉と涙。今にして思えば顔をぐちゃぐちゃにしてまで縋る必要なんてなかったのに、馬鹿だなぁ。まぁ、そんなこんなで呆気なく私は彼氏と別れた。
それからは友達に戻る訳でも無く、なんならLINEをブロックされて繋がっていたSNSもブロックされた。私はどうにかしてブロックを解除して欲しくて、友達に戻りたくて、あわよくば復縁したくて仕方がなかった。そのほかの事は目に入らないくらい、依存していた。元彼に宛てたくさいポエムの投稿までした。「貴方に会いたい」だとか「独りは寂しい」とか、そんなことを繰り返し呟いた。ネット上にゴロゴロ転がっている無料の占いや、ヒーリングを受けたりもした。無料サイトに載っている占いなんだから結果がバラバラになるのは当たり前なのに、それにすら気が付かず結果に一喜一憂していた。結局無料の占いでは満足出来なくて、Googleで当たる占いを調べ倒した。「東京 占い 当たる」「復縁占い」「当たる占い 複雑恋愛」思い当たるワードは全部打ち込んだ。そして出てきた占いの館や個人サロンの評価を片っ端から見ていって、高校をサボって占い屋に駆け込んだ。オンラインでもお願いした。合計で4,5万円は使ったんじゃないだろうか。それが高校二年生の終わりと高校三年生の始まりの時。占いの館も、サロンも少し薄暗くて、尻込みをしてしまいそうな雰囲気を漂わせていた。それでもここまで来たのだから、と自分を叱咤して受付をした。占いの先生に尋ねることは、「どうしたらブロックは解除してもらえるのか」「もう一回好きになってもらうにはどうしたらいいのか」と決まり文句のように何度も何度も同じことを聞いた。占いの先生は優しかった。話を聞いたうえで、みんな口を揃えて「大学に入るくらいに自体は好転する」と言ってくれた。サロンを構えている先生なんかは、「相性はいいのだから時期の問題で、貴方の問題じゃない」と教えてくれた。それを信じて私は心を強く持つようにした。別れた時はご飯も喉を通らない、外に出られない、好きな音楽も聞けない、と悲惨な状態だったけれど少しずつ回復してきた。
それには他の理由もある。活動を休止していた好きなアーティストさんがライブをすると決まったから。なんとなくで申し込んだ。後から調べた話だと、倍率はとんでもなかったらしい。それでも当選して、アリーナ席でアーティストさんを見て、直に音楽を浴びた。一種の浄化パワーがあったのかもしれない。
私はゆっくりと元気になっていった。一旦元彼のことは置いておいて、自分のことに目を向けるように変わった。好きな音楽も聞けて、外に出るようになって、受験勉強に励んだ。受験が終わる頃には、頭の大部分を占めていたはずの元彼のことは、隅に追いやられていた。決して忘れられたわけじゃない。それでも小さな存在になった。そのまま私は大学に合格した。第一志望の大学の学科だった。
同じくらいに、またアーティストさんがライブを開いた。そこで新しい友人ができた。その友人に掻い摘んで元彼の話をした。誰かに元彼の話をするのは初めてだった。なんて言われるのかドキドキしながらも、あくまで軽く、愚痴です、過去の事です、と言うように伝えてみた。ずっと、別れたのは自分が悪いと思っていたから恥ずかしくて言えなかった。こんなやつなんだ、と思われたくなくて言えなかった。友達の様子を窺うと、話を聞き終えてから「それは元彼悪い」と言った。私の手前、そう言うしかなかったのかもしれない。それでも、「私が全部悪い」そう思っていた私にとっては光のような言葉だった。ホッとするのと同時に、急速に元彼に冷めていくのを感じた。少し前まで、占いに頼るくらいに復縁したかったのに。思い出の物は何ひとつとして捨てられなかったのに。言いたいことが言えない、そんな夢ばかり見ていたのに。
もう、どうでも良くなった。友達と通話を繋げて、そのままの状態で私は、元彼の連絡先を全部消した。LINE、Twitter、電話番号。あるもの全てを消した。連絡先を消した時、胸につかえていたぐちゃぐちゃな想いが解き放たれた気がした。何故か溢れてくる涙で視界がぼやけながらも、取っておいた手紙もビリビリに破いてゴミ箱にダンクシュートの勢いで捨てた。お揃いで買ったキーホルダーも、一緒に撮ったプリクラも、全部全部捨てた。部屋の一部を陣取っていた元彼との思い出。薄情かもしれないけれど、なくなってスッキリした。もっと早くこうできていたら良かったのに。なんて思うけれど、今だからこれだけ思い切ったことが出来たのかもしれない。
……それでも、好きだったから。一年間と少しはちゃんと好きだったから。もう会いたいなんて思わないし、思い出の物は全部捨てたし、復縁なんか願ってないけど。どこか私の知らないところで幸せになっていたらいいなぁ、なんて思ってみた。
復縁したいだなんて remu @kiminisekai
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