おねーちゃん、どうしたの?

狐照

第1話

わたしには6つ離れた妹が居る。

幼い頃から妹が欲しかったわたしは、妹が産まれた当時大喜びした。

あまりの可愛さに、わたしが目を離した隙に盗まれてしまうのではないか、と考え学校に連れて行きたいと泣くほど。

妹が可愛かった。





妹は今年14歳になる。

だからわたしは20歳だ。

これは、成人の写真を撮った時の話だ。


わたしはちょっとだけ太ましい。

気にしているのだが、中々痩せない。

格闘技を嗜んでいるせいだ、と己を納得させている。

わたしには幼馴染のSが居る。

すごく美人の幼馴染。

小顔で色白。

ほっそりしてて、誰もが美人!と思う容姿の幼馴染だ。


そんな幼馴染とわたしは成人の写真一緒に撮ることになった。

親ぐるみで仲が良いのでそうなった。

そして共に振袖を着た。

写真館で撮影もした。

その日は晴天だったから、このまま外でも撮影しようという流れになった。

そこで近くの公園に行くことになった。


とはいえ、このSの隣で振袖でいるのは慣れているとはいえ思ってしまう。

公園を訪れている人の視線も、すごく気になる。

今に始まった事じゃないけれど、ちょっと嫌になる。


その公園は区の文化遺産があるちょっと変わった公園だった。

川もあるし、池もある、梅園や桜も植わっている。

自然も豊かなので動物も多く生息していた。

そして文化遺産の建物もある。

幼馴染とはよく遊んだ公園なので、今思うと不思議な場所だと思う。


「おねーちゃん」


妹は中学2年生というには小さくて細い。

少食が原因だ。

ねずみが齧ったのか?という程度しかご飯を食べない。

だからわたしにあまり似ていない。

というよりも、家族に似ていない。

親戚にも似ているひとが居ない。


猫のような目にいつもご機嫌とばかりに歪められた唇。

真っ黒で艷やかな髪。

印象に残る高い声。

多分可愛い部類に入る容姿。


親戚一同首を傾げるのだ。

誰に似たんだろうね、と。


今日はわたしの成人の写真を撮るからということで制服を着ていた。

一緒に映るに相応しい恰好、ということらしい。

成長するからと大きめのを買ったのだが、今だにぶかぶかで新1年生にしか見えない。


「あっちでとろーよ」


妹は振袖姿のわたしを綺麗可愛い、と褒めてくれた。

そして最高の1枚を撮らないと、と張り切ってくれた。

わたしは普段着飾らない。

だからフルメイクに振袖の自分が変に見えたし、落ち着かなかった。

けれど妹は綺麗可愛いと、嬉しそうに笑ってくれた。

勿論幼馴染のSも綺麗だと言っていたが、妹はわたしを誉めそやしてくれた。

気を遣わせてしまっている、と思う反面、純粋に嬉しかった。


「なんかごめんね、めっちゃくちゃはりきってて」


「ううん、全然。むしろいいなーって思う。私1人っ子だから」


青空の下、微笑む幼馴染のSは美しかった。


「可愛いよね、妹ちゃん」


「あー…最近生意気だけどね…」


「あはは、そういうもんでしょ。あ、そう言えばさ」


「うん、なに?」


「ここの公園また自殺あったんだってね」


「…らしいね」


「なんでここで自殺なんてするんだろうねぇ」


理解に苦しむといった様子の幼馴染に、わたしは何も言えなかった。


昔からこの公園は多かった。

なにをどう改善しようとしても、後を絶たない。

だからわたしの足は遠のいていた。

いくら近所でも、気味が悪いから。

でも妹は好きらしく、しょっちゅう通っては動物や植物の写真を撮っているようだった。


「ここーここでとろー」


「はいはい」


そんな妹に呼ばれたのは陽当たりの良い場所だった。

時期が時期だけに桜も梅も咲いてない。

なのに樹の傍に立たされた。

まあいいけど、と樹の傍に立つ。


「あ、おねーちゃんはそっち、Sさんはそっち立って」


「こう?」


言われた通り樹を間にしてふたりで立つ。

どういう構図なんだか。


「…うん、そう、さいこー」


妹が嬉しそうにスマホを向けてくる。

白い歯見せて笑ってる。

日の光浴びてるの久しぶりに見た。

あまり一緒に外出しないから、新鮮だ。









「おもいしれ」








なにを?

と、思った。

聞こえるか聞こえないかの声量で、おもいしれって。

なにを?と、思った。

確かに妹の声だったから、妹が言ったんだと思うんだけど、Sは気にしてない様子だった。

だから、妹には聞けなかった。


「おねーちゃん、次は私とツーショット撮ろ」


駆け寄って来て甘えて来る妹に、わたしは、聞けなかった。







その後すぐだ。

幼馴染が怪我をしたのは。

腕を折ったのだ。

転んで。

なんでもない所で。

危うく首の骨を折りかけたらしい。


「心配だねー、おねーちゃん」


その連絡を受け、わたしはリビングでしょんぼりしていた。

なにも出来ないけれど、心配だった。

しょんぼりしているわたしに気付いた妹が、お茶いれるねーとお湯を沸かしてくれる。

お茶菓子あったかなーと、動く姿に少しだけ癒された。


「うん…ほんと…心配…」


「まぁ、だいじょうぶだよー思い知っただけだもん」







なにを?






リビングで会話をしていただけなのに。

幼馴染の話をしていただけなのに。

お茶をお菓子を。

ここがどこかがわからなくなる。


妹がわたしを見ていた。

真っ黒な瞳がわたしを見ていた。


「おねーちゃん、どうしたの?」


「なん、でも、ない」


心臓が痛い。

すごく早く脈動して、痛い。


わたしは誤魔化すように「お茶菓子、あれ、あるよ、買ってある」自分用に買っておいたお菓子を冷蔵庫から取り出した。

手が、震えないように、気を付けながら。






幼馴染のSとは連絡を未だに取り合っている。

でも、なんとなく。

妹には合わせないようにしている。

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