第9話


 反射的に横を向けば、冷蔵庫に軽く身を預けながら立っている恐ろしい義弟の姿が視界に入った。


 いつの間にいたの?全然気づかなかった。食事の終盤で欠伸を零して部屋に行ってしまったから勝手に寝ていると決め付けていたせいで見事に油断していた。


「びっくりした、起きてたの?」

「寝てて欲しかった?」

「そういう訳じゃ…「顔に書いてあるよ」」


 クスクスと笑う彼の表情は悪戯っ子のそれだ。


「食事の時間長くて。俺、お酒も呑めない未成年だし、退屈になって部屋に戻ってただけ」

「そっか、確かに大人のお酒の席は長いもんね」

「うん、部屋でずっと待ってた」

「待ってた?何を?」

「“涼夏ちゃん”と二人きりになれる時間を」


 全身に緊張が走り、無意識に身構える自分がいる。そんな私を知ってか知らずか、じりじりと距離を縮めて迫る彼からは食卓で見せていた“良い子”の顔がすっかり消えていた。


「ま、苺君…近いよ」

「近づいてるからね」

「離れてくれる?」

「どうして?」

「どうしてって…」

「嫌?」


 静けさに包まれている空間で相手の艶めいた声だけが私の鼓膜を掠める。すぐ目前でコテンと傾く端麗な顔。パチパチと彼が瞬きをするだけで、その長い睫毛が風を仰いでしまいそうだった。


 まだ知り合って間もないけれど私の中で苺君はすっかり危険人物認定されている。しかし彼は私よりも五つ下で、更には血縁関係こそないものの戸籍上では私の義弟だ。そんな相手に「うん、嫌だよ」と正々堂々と言い放てる程の度胸を私は有していない。万が一にでもその言葉一つで彼を傷付けてしまったらという方向に思考がどうしても働いてしまう。


「嫌というか」

「……」

「その…」

「……」

「片付けが進まないから、困るかも」


 逃れる様に特に用もない方向へ視線を滑らせた。

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ロンリーファンシーストロベリー 蒼月イル @el1113

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