第43話 ズレータとの対決

今日は月曜日だ。

7週目の個人戦の日で、7~9週目は11~20位からランダムで相手が選ばれる。

28位の僕からすれば格上が相手となるが、僕が上位を狙うならここには少しでも勝っていきたい。


そんな僕の相手はズレータ君だった。

ダンジョン演習では何度も一緒になっているし、最初はテルキナの取り巻きの一人という感じで、だから当初は僕との仲もあまりよくなかった。だからズレータ君は、テルキナパーティーだと思っていたけど、アンによるとそうとも限らないみたいだ。

最近なぜかダンジョン演習でよく一緒になっていて、僕と縁があるみたいだ。しかも連携の相性は悪くなかった。

だからチャンスがあるなら、この個人戦が終わったら是非団体戦に誘いたい。

そのためにも今日の個人戦はいいところを見せたい。

せっかく来ても良いと思ってくれていたとしても、僕があまりに頼りなかったら、来る気がしなくなっちゃうかもしれないからね。


順番になったので演習場に入るとズレータ君が待っていた。準備万端のようだ。

ズレータ君は筋骨たくましい斧戦士だ。

いかつい戦斧を両手で持ち、ぶんぶんと力強く振り回してくる。

防具は肩当てと胸当てが金属製で、あとはそれらを革のベルト繋いであるだけの、どちらかというと世紀末に出てきそうな、筋肉を前面に押し出したスタイルだ。

頭はモヒカンではなくスキンヘッドだけどね。


防御より攻撃というスタイルだけど、技量があるからモブ四郎君みたいな攻撃全振りタイプではない。


―――ブーッ!


試合開始のブザーが鳴ると同時に僕は、光の矢をけん制で放つ。

ズレータ君は開始と同時に僕の方にダッシュしようとしたが、目に向かってきた光の矢は無視はできなかったようだ。でももうズレータ君には光の矢のタネがバレていて、基本は避けずに突っ込んでくるが、目元に飛んだ時だけひょいと身をかわした。


とはいえそのまま勢いよく突っ込んで全力で戦斧を振るわれたら、盾で防御しても吹っ飛ばされたかもしれない。そう思うと、こちらが機先を制することはできたような気がする。


とはいえ、近寄らせないほどではないので、接近戦が開始される。基本的にはズレータ君が攻めて、僕がカウンターを狙う形だ。とはいえモブ四郎君と違って、なかなかカウンターを狙う隙が無いのだけれど。


1分が経過した。

盾できちんとズレータ君の攻撃を防いでいるのに、だいぶ押されている。ちゃんと防いでいるのに、ズレータ君の唸りをあげる攻撃の衝撃で盾を持ってる腕が痛い。それでも隙を狙って、カウンターでメイスを振ったり、光の矢を放っていく。でも僕のカウンターはズレータ君にきっちりとガードされる。くっ。

無理に攻めていないから、カウンターのカウンターを狙われたりは、今のところない。でもこのままだとジリ貧だ。無理に攻めたら危なそうだけど、そうしないと勝ち目がゼロだ。引き分け狙いでこのまま10分もつとは思えない。


2分が経過した。

どこかでもうちょっと踏み込んで戦いたいと思っているのだけど、その機会がないままだ。なんとか隙を見つけないと。


「ガハハハハ。やるじゃないか、アキラ。もっと楽に倒せるかと思っていたけど、意外と骨がある。このまま続けても勝てそうだが、最後まで粘りきられてもかなわん。いくぞ!」


戦斧を右に左に振り回し攻撃してくるのは変わらないが、そこに足蹴りを混ぜてきた。うっ、かろうじてこらえているけど、もうもたない! と思ったその瞬間、僕の盾を蹴ると見せかけて、土の地面を蹴って目潰しされた。

砂が目に入り、視界が塞がれる。ぐうっ、こっちが目潰しされるとは!


「悪いな、アキラ!」


なんとか盾を前に出して守ろうとするけど、脇腹のあたりをばっさりと攻撃をくらってしまった。目はなんとか回復して少しだけ前が見えるようになったけど、畳みかけてくる攻撃に痛みで踏ん張れない。とりあえず防ごうと安易に前に出した盾が、ズレータ君の力強い攻撃で弾き飛ばされてしまう。


「しまった!」


「ガハハ。アキラ、もらったぞ!」


更に畳みかける追撃がくるけど、ここは敢えて前に出る!

左肩の肩当てごと攻撃を食らうが、それより前に僕はズレータ君の左太ももあたりにメイスの一撃を食らわせてやった。結構なダメージなはずだ。


……僕のダメージはもっと大きいけど。肩当てごと左肩を潰されてしまった。これではもう盾を持てないし、痛みが半端じゃない。


そのまま吹き飛んだのとズレータ君の足にダメージを与えたから、その時間で自分に回復魔法をかける。左肩の傷はとくに大きく、全然治らなかったけどとりあえず脇腹の出血は止まった。

見ればズレータ君はガシガシと僕の攻撃を受けた左足を殴っている。


「壊れた魔道具じゃないんだから、殴っても治らないでしょ。」


「いいんだよ。この程度の傷、動くことがわかれば問題ない。」


左足が動くことを確認したズレータ君は、またこちらに突撃してきた。もう一回回復魔法を使う時間は与えてくれないようだ。とりあえず光の矢を放つが、戦斧を顔の前にかざして、顔面への直撃さえ防げばいいという割り切った戦い方のようだ。


うん。実際それでほとんど無力化されちゃうね。まぁ簡易的な目潰しとしては、役に立っているとも言えるけど。


このあと、僕はガードを捨てて、殴り殴られの泥仕合にもちこもうとしたんだけど、結局最後はズレータ君の圧倒的な攻撃力に、完全に押し切られてしまった。

回復魔法を使ったり、光の矢で上手く目潰しが決まったりもしたんだけどね。ズレータ君の連続攻撃が僕に命中したときには、もう回復魔法ではとても追いつかないダメージになってしまった。


でも健闘が認められたのか、僕は2点の加点を獲得した。



試合終了後、僕はズレータ君と話す機会があったので、団体戦への参加を打診してみた。


「そうか、アキラは俺を誘ってくれるのか。うーん。」


「テルキナから誘われてないの?」


「誘われている。誘われてはいるが、この前のダンジョン演習あっただろう?あれを見るとアイツについていっていいものかと。アイツのことが嫌いになったわけではないが、俺は成長できるのか疑問に思ってしまった。」


「そうだったんだね。」


「その点アキラの指示はよかった。あれなら俺が生きるし、次はもっと上手くやれる。そして俺自身も成長できる気がするんだよな。」


「そう思ってくれるだけでも嬉しいよ。よかったら考えてみてくれるかな。返事は急がないから。」


「そうだな……。いや、いい。俺は俺の感覚を信じる。この場で返事をしよう。

アキラ、こちらこそ頼む。お前のパーティーに入れて欲しい。」


ズレータ君が右手を差し出してきたので、僕はその手をとってガッチリと握った。


「やった!ズレータ君がいてくれたら、百人力どころじゃないよ!」


「おう、一緒に高みを目指そうぜ。」


やった!待望の前衛の二人目だ!ズレータ君が仲間だなんて、これほど心強いことはない!

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