第10話 罰と償い

#1

 逃げ延びた数少ないビヨンド達の所に現れたマイク。

 ラミナやカイル、ジークがまず声を上げた。


「アンタ、どうやって……」


「ピュリファインの知り合いが車貸してくれたんだ、GPSついてるみたいだから置いて来たけど……」


 リチャードから車を借りた事を説明しジークの隣に座るマイク。


「今の状況は?」


「最悪だよ、明日みんな処刑されちゃうって……」


「マズいなそれは……」


 ジークのパソコンを借りて一通りニュースを見て現状を把握するマイク。

 その中にある一つの記事に目が止まった。


「そんな、リチャードさん……」


 それはリチャードが死亡したという記事だった。

 更にそこにはマイクが殺したという事が書かれている。


「くっ……」


 真実は分からない。

 しかし自分が与えた傷、もしくは問題が原因であると考えてしまい地面を殴る。


「本当に最悪な状況だな……」


 マイクも考えるが何も浮かばない。

 レクス派のビヨンド二人もマイクを見ている。


「お前が来た所で状況は変わんねぇだろ……」


「あーあ、結局俺らも終わりなのかね」


 焦りが募るマイク。

 汗が額から流れ落ち地面を濡らす。

 すると何かが近付いて来る音が聞こえる。


「……ここに集まっていたか」


 一同は一斉に振り返る。

 そこには予想外の人物がいたのだ。


「な、何でアンタが……っ!」


 その人物とはピュリファイン総司令のノーマン・タイラーだった。

 攫われたテレサの父親でもある彼が何の用があるのだろうか。







『Purifine/ピュリファイン』

 第10話 罰と償い







 突然現れたノーマン。

 一同が警戒する中ノーマンは言う。


「今ここで争うつもりはない。現に見てみろ、私は一人だ」


 確かに言われた通りノーマンは一人だった。

 しかしラミナは疑い続ける。


「そう言って周りに配備してるんじゃないの?」


「疑われるのも無理はない、しかし本当だ。司令塔をノコノコ敵の中に放り込む組織がどこにある?」


 警戒は解けない一同。

 その中でマイクが口を開いた。


「何の用だ、テレサの父親なんだろ? 自分の娘を攫って実験に使うような親が信用できるか?」


「その事で頼みがある」


 頼み事という言葉を口にしたノーマン。

 一同は次の言葉を待った。


「頼みって……?」


 そしてノーマンは口を開いた。


「……テレサを奪い返しカオス・レクスから遠ざけてくれないか?」


 まさかの発言に動揺する一同。

 驚きを隠せないマイクだったがカイルが先に口を挟んだ。


「何故テレサを……⁈」


 ノーマンもその問いに説明を始める。


「カオス・レクスの計画を阻止したい。ヤツは更なるダスト・ショックを起こそうとしている」


 その話を聞かされショックを受ける一同。


「何で、元の世界に帰ろうとしてるんじゃ……」


「それはお前たちを利用するための建前だ。アルフはそれを信じていたが裏切られたようだな」


「でもそんなこと言われたって……」


 ノーマンを信じられない一同だがマイクはある言葉を思い出す。

 それは一度収容所に囚われた時に会ったレクスの発言だった。



『見た事もねぇ故郷にねぇ』



 初めから気付くべきだった。

 あの時の発言はそれを意味していたのだ。


「そうだ、レクスは帰るつもりなんて無いんだ……」


「ようやく気付いたか」


 そしてノーマンは説明を先に進める。


「以前ダスト・ショックを起こしたのもそれが原因だと考えられる。そのためにテレサは利用された、二つのゲートの性質を持つ上で両方の負荷に耐えられない存在として選ばれたのだ」


 今の説明を受けたマイクはある疑問を抱く。


「二つのゲートの性質を持つってどういう……? 元人間だから浄化と汚染の二つを合わせ持つとか?」


 聞いていた話によるとテレサは元人間。

 そこを利用されたのだろうか。


「そうか、知らないのだな……」


「え……?」


「テレサは元人間などではない」


 そしてノーマンは衝撃の真実を語り出す。


「テレサは約半世紀前、二つのゲートの接触により産み落とされたゲート同士の子供だ」



 愕然としてしまう一同。

 ラミナが震えた声で問う。


「じゃ、じゃあアンタの娘って話は……?」


「血縁はない。当時のゲート研究の責任者が私だっただけだ」


「そ、そんな……」


 予想外のテレサの正体にショックを受ける一同。

 しかし彼らを気遣う様子もなくノーマンは淡々と説明を続ける。


「二つのゲートの性質を持つ者が両者の負荷に耐えられなかった場合に起こるのがダスト・ショックだと仮定する、しかしテレサによるソレは予想以上に小さかった」


 研究の結果から導き出された仮説を語った。


「ならば更に巨大な爆発を起こせるように調整すれば良い、そのパーツとして見出されたのが君だ」


 ノーマンはマイクを指して言った。


「お、俺……?」


「そうだ、ヤツは人間からビヨンドへ変わった君にテレサに近いものを見出した。もしかしたら君なら更に巨大なダスト・ショックを起こしてくれるかも知れない、更にテレサまでまだ利用価値はあると考えているかも知れん」


 しかしだとすれば色々と腑に落ちない事がある。

 その事をラミナが問う。


「じゃあディランはっ? わざわざマイクの血で蘇らせて二人でゲートを宿したのは? ゲートは拓いたみたいだけどダスト・ショックなんて起きないじゃないっ」


「そこは私も気がかりだ。安定したゲートから汚染物質を永続的に流し続けるつもりか……」


 ノーマンも詳しくは知らないらしい。


「しかしヤツがこの世界を変えようとしているのは事実だ、テレサを奪い返し君とテレサをヤツから逃してくれ」


 そこで新たな疑問が浮かんだラミナが問う。


「だけどアンタ一応ピュリファインの総司令でしょ? アタシ達に協力するみたいな事していいの?」


「もちろんこの事は口外無用だ。私はあくまで君たちの敵として振る舞おう、だが裏でサポートはする」


 少しだけ希望は持てた一同。

 しかしまだ絶望的な戦力差がある事に変わりはない。


「でもアタシ達これで全員よ? どう見たって勝ち目ないじゃない」


 そこはノーマンに考えがあるようで。


「そこでだ。私からマイク君にプレゼントがある」


 ノーマンは車椅子の荷台に積んであったアタッシュケースを取り出しだ。


「開けてみろ」


 マイクは息を呑みアタッシュケースを開けてみる。

 するとそこには一本の注射器が。

 中には紅い浄化物質のようなものが薬のように入れられている。


「これは……?」


「ディランから抽出した君の血が混ぜ込まれたエレメントだ、それを打つ事で君の内に宿るテイルゲートは覚醒し更なる力を発揮し制御する事が叶うだろう」


 その言葉を聞いたマイクは注射器を手に持つ。

 そしてノーマンの仮面に隠された顔を見つめた。


「では私はこれで失礼する、これも渡せたしな」


 振り返り去っていくノーマン。

 マイクはその背中に問い掛ける。


「待って! この力を使えば俺はどうなる……?」


 振り向かずノーマンは静かに答えた。


「君はより完全なビヨンド、ゲートに近い存在と化すだろう。しかし既にビヨンドの身だ、躊躇う理由はないはずだが」


 そしてノーマンは去っていく。

 見えなくなるまでその背中を見つめるマイクだった。



 ノーマンが去った後、ラミナは立ち上がり注射器を見つめるマイクに告げる。


「やめときなよ、アンタ出来る事なら人間でいたいんでしょ? このままじゃ本当にビヨンドになっちゃうって……」


 明らかな心配を見せるラミナ。

 そんな彼女にマイクは優しく微笑む。


「ありがとう心配してくれて、最初の頃と大分違うね」


「それはっ……」


 少し頬を赤らめてしまうラミナ。

 マイクはずっと微笑んだまま。


「俺もここに馴染めたって事なのかな?」


 するとカイルが立ち上がりマイクの肩を叩く。

 口数の少ない彼が珍しく口を開いた。


「お前はもう家族だ」


 その言葉にマイクは少し悲しそうな笑みを浮かべる。

 そして一同に何も言う事なくその場を去ろうとした。


「ど、どこへ……⁈」


 ジークがマイクの行き先を問う。

 エリア5の彼らも着いて行こうとするがマイクが手を出し静止した。


「ちょっと一人で考えたいんだ、ありがとう」


 そのままマイクは崩れず残っていた建物の中に入って行った。


 ***


 ボロボロの家の中の椅子に座りマイクは手に持った注射器を見つめる。

 その後周囲を見渡しビヨンド達の生活の過酷さを思い知った。


「人間だった頃の俺より酷い生活だな……」


 汚染難民として生活していた頃を思い出しビヨンド達の現状と重ね合わせる。

 それでも尊厳を踏み躙られるビヨンド達の生活はより過酷である事に間違いないだろう。


「よいしょっと……」


 マイクは立ち上がりその家を色々見て回る。

 そこで分かった事は他の建物が崩れているので残ったこの家に多くのビヨンド達が集まっていたという事。


「あ……」


 多くの座布団が一つの錆びた鍋を囲んでいる。

 それだけで多くのビヨンド達が身を寄せ合い少ない食糧を囲んでいた事が分かる。

 鍋の中身を見ると腐った具材が少しだけ残っていた。


「食べてる最中に攻撃されたのかな……」


 少なくとも難民としての暮らしの中でそんな事は無かった。

 ただ難民も生きる事に精一杯ではあるが彼らは更にそこに脅かされる恐怖もあったのだ。


「っ……」


 歯を食いしばるマイク。

 心の奥で葛藤していた。

 そんな時に思い出されるのはテレサの言葉。



『嬉しいよ、私たちを"人"って言ってくれて』



 その言葉を思い出し体が震え出す。

 しかし恐怖ではない、これは武者震いだった。


「はは、本当俺ってお人好しだな……」


 そう呟いた後、マイクは自身の太腿に注射針を刺した。



 マイクを待つラミナ達。

 そこへ帰って来るマイク。

 地鶏足でどこか苦しそうだった。


「ちょっと大丈夫⁈」


 倒れそうなマイクを支えるラミナ。

 その拍子にマイクの手から空の注射器が転がり落ちた。

 それを見たジーク。


「それ、まさか……」


「あぁ、打ったよ」


「そんな!」


 その言葉を聞いたラミナが叱る。


「こんな苦しそうにして、アンタどこまでお人好しなの!」


「はは、それが俺だから……」


 マイクは座り語り出す。


「注射打った時さ、色んな気持ちが流れ込んで来た。多分ゲートに宿ってたものなのかな……」


 注射器のエレメントから与えられたもの。

 それは様々なビヨンド達の想いだった。


「色んな怖い気持ちとか絶望とかさ、感じたんだ。でもやっぱり俺の血が混じってるからかさ、一番デカいのは皆んなを家に帰してやりたいって気持ちなんだよね」


「アンタ……」


「俺の根底はそこにある、だから行こう。テレサだけじゃない、皆んな助けるんだ」


 マイクが決意を固める。

 それは何よりもリーダーらしい振る舞いだった。






TO BE CONTINUND……

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