ギャルと七不思議と妖精

いろは杏⛄️

第五文芸部の日常―第3話:妖精

 とある放課後、私は自身が部長を務める第五文芸部の部室で、今日の授業で出された宿題をせっせと片付けていた。

 すると唯一の部員である超絶美少女――高世むつみが手持ち無沙汰になったようで、私が宿題を始めてから5分もしないうちに話しかけてきた。


「ねぇねぇ、ぶちょーちゃん」


 相変わらずの人の心をくすぐるような綺麗な声で呼ばれたため思わず手を止めて彼女を見る。


 やっぱりこの世の全ての美と華はここにあり――と言わんばかりの美貌だなぁ。


 そんなことを思いながら、どうしたの――と返事をする。


「なんか面白いことないの?」


 また無茶振りを……。


 そう思わずにはいられなかったが、ふとクラスの女子たちの間で話題になっていた話を思いだした。


 むつみさんはあまり興味ないかもしれないけれど試しに――それくらいの気持ちで彼女に返してみた。


「そういえば……クラスの女子でなんか七不思議みたいなのが話題になってたなぁ」

「へぇ――どんな話?」


 意外と食いついてくれたので話を続ける。


「結構ベタで旧校舎ってあるでしょ? そこの3階の一番奥から1つ手前に準備室くらいの小さい部屋があるんだけどね、放課後そこに行くと……妖精がでるんだって」


 自分で話してみても変な話だなと思う。

 怪談のような幽霊系というわけでもなく妖精――それがでたところでなんだという話だ。


 しかし、むつみさんはここまで聞いても興味津々なようで、せっかくだし行ってみようか――と言うとわたしの手を取ってズンズンと旧校舎へと歩いていった。


 ✾✾✾


 旧校舎と言いつつも、それほど昔に建てられたわけではないのだが、基本的に用がなければ来ることはない。

 そのため放課後の今等はまさに静まり返っていて、私たちの上履きがリノリウムの床に反射する音だけが木霊しているようだった。


 目的の部屋に到着すると、むつみさんは何のためらいもなくドアを横に引く。

 私も後からそろそろと入っていくと、中には長机が1つ置かれているのみで他には何もなかった。


「……ここであってる、よね?」


 教室の一番奥まで歩いていき、私はむつみさんに問いかける。

 むつみさんは探索のためか、教室をグルっと回っていた。


「うん、ここであってる――」


 はっきりそう言ったむつみさんは何故か入り口のドアの内鍵を閉める。


「……むつみさん?」

「あたしね、その話知ってんだよね」

「どういう……」


 困惑する私に一歩ずつゆっくりと近づいてきながら、むつみさんは話を続ける。


「この部屋に妖精が出るっていうのはホントのこと。でもここで言う、は――ものの例え、要するに比喩なんだよ」


 また一歩、私に近づいてくる。私の背後には窓しかなく、彼女から遠ざかる手段がない。


「妖精が意味するのはね――密かに愛を育み合う少女たちのこと」


 むつみさんがそういった時には私との距離はほぼ0であり、その最強すぎる生命体からなんとか距離を取ろうと張り出した手を、絡め取るようにぎゅっと握られる。


「ひゅ――」


 思わず声が漏れた。

 

 そのままその神の悪戯としか思えないほど整った形の唇が私の耳元に近づき、そっと囁く。


「あたしたちも――妖精になれるかな」


 女神の神託かと思うような綺麗な声が耳から入ってきて脳が蕩けそうになった。

 自分が今立っているのか、どんな顔をしているのか、全くわからない。

 私の記憶はそこで途絶えた。


 脳が最後に記録していた光景は――むつみさんの最強とも言える顔が、わたしの顔に最接近していたところだった。

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