待って、お題これで合ってる?

加藤ゆたか / Kato Yutaka

待って、お題これで合ってる?

「見間違いじゃないよ。おいらは森の妖精さ!」


 小さなそいつは切り株の上に立ち、緑色の服にとんがり帽子をかぶって「えへん」と威張るように言った。

 俺は思わず隣の詠美よみの顔を見た。

 目を丸くした詠美はそいつから目を離さずに言った。


「おいらって言った……。本当に妖精なんだ……。」

「そうだよ。おいらはずっとこの森で暮らしてるんだ。」

「じゃ、じゃあ、ここから出る方法を教えてくれ!」


 俺はそいつに食ってかかるように言った。

 俺と幼馴染みの詠美がこのへんちくりんな森をさまよってすでに半日が経とうとしている。

 いったい俺たちはどうしてこんなところに迷い込んでしまったのか、まったくそれに関する記憶がなかった。気付いたらここにいた。それしかわからない。


「うーん。出る方法ねえ……。」


 そいつはとんがった目をさらにとんがらせて唸った後、わっはっはと笑って言った。


「おいらにもわかんないよ。おいら、森から出たことないからさ!」

「はぁ!?」


 ふざけるのは格好と存在だけにしやがれ!

 俺はともかく、詠美は明日、大事な予定があるんだぞ!

 俺は隣の詠美ががっくりと肩を落とすのを見逃さなかった。


「詠美……。大丈夫だ。こんなみょうちくりんを頼らなくたって、俺がなんとかしてやる。」

「でも、そう言って駆留かける、ずっと同じところグルグルしてるじゃん……。」

「うっ……それは……。」


 そりゃそうだ。なにせ、どうやってここに来てしまったのかもわからない。まったく見覚えのない森の中。しかも、妖精がいるなんて。

 考えたくはないが、ここは俺たちのいた世界とは根本的に違う可能性だって出てきた……。


「……へへへ。おいら、楽しいなぁ。」

「ん? おい、お前。今、なんか言ったか?」

「えへ? おいら、何も言ってないよ! 聞き違いじゃないかい?」

「いや、お前、何か隠してるだろ!?」

「隠してないよ、おいらはどこにでもいるただの森の妖精さ!」

「いねえんだよ! 森の妖精はどこにでもなんて! やっぱりお前怪しいぞ!」


 目をとんがらせてニヤニヤと笑う自称森の妖精を捕まえようと俺は手を伸ばした。

 しかし、そいつはひらりと俺の手の間をすり抜けると、切り株から飛び降りて走り出した。


「えへへ! おーい! 次は鬼ごっこだよ! おいらを捕まえてごらん!」

「てめえ! 絶対に逃がさねえぞ!」

「あっ! 待って! 駆留!」


 俺は必死にそいつを追いかけたが、そいつは俺をおちょくるように踊りながらすばしっこく逃げ回る。

 くそっ! 捕まえられないのか!?


「ま、待ちやがれ……!」


 俺も詠美も、走り疲れて限界をむかえていた。

 それを自称森の妖精は嬉しそうに眺めていやがる。


「誰でもいい……俺たちに手を貸してくれ……!」


 そんな願いが誰に届くというのか。

 俺は森にしげる木々の根に足をとられ、無様にもすっころんだ。


「駆留! 大丈夫!?」


 詠美が俺に追いついて、俺を抱きおこした。

 満身創痍の俺が詠美の顔を見ると、詠美は目に涙を浮かべていた……。

 詠美は自称森の妖精に言った。


「お願い! 私たちを元の場所に帰して!」

「えへへ。そんなこと、おいらに言われても、おいらにはどうすることもできないよ。」

「嘘っ! 私はあなたを知ってる! あなたは私が創った! 私の書いた小説に出てくるいたずら妖精にそっくり! ねえ、そうでしょ!?」

「えへへへ。どうかなぁ。おいら、わかんないなぁ。」

「ううぅ……、ぐすん。……え〜ん。どうしてこんなことするの……。私たちを帰してよ。……せめて駆留だけでも帰して……。」

「詠美……。」


 俺がふがいないばっかりに、好きな女の子を泣かせてしまった。

 俺が守らなければいけない詠美の笑顔を、俺は守れなかった……。

 いや……。俺はニヤニヤと詠美の涙を眺める自称森の妖精の憎たらしい顔を見て思い出した。

 もしもこの世界が詠美の書いた小説の世界なら。俺は確かに憶えている。

 俺は最後の力を振り絞り、天に向かって叫んだ。


「お願いだ! この世界が詠美の世界なら! 俺は何を差し出してもいい! 詠美を助けてくれ! お前にならそれができるだろ!? なあ!? トリ!!」

「え!? 駆留!?」


 いちかばちかの賭けだった。

 でも、どうやら俺は賭けに勝ったようだ。

 俺たちのいる場所に天から光がふりそそぐ。


「トリの降臨。」


 それは神々しいとはいいがたい丸い容姿に小さな翼で、俺たちの前に現れた。


「詠美ちゃん、駆留くん、やっと呼んでくれたね。カクヨムの『トリ』だよ〜🐥」

「……ふはは、本当に来やがった。」

「トリちゃん……? 夢じゃないよね……?」


 トリは俺たちに視線を送った後、憎たらしい緑の妖精に目をむけた。


「お題とはいえ、よくも大事な詠美ちゃんと駆留くんをいじめてくれたね。お仕置きしないといけないね。」

「ひ、ひぃい。お、おいら、何も悪いことしてないよ!」

「問答無用! お前なんかこうしてこうやってこうだ!」

「うげえええええ!!」


 そういうが早いか、トリは緑のそいつをくちばしで素早くつかみ、そのまま飲み込んでしまった。

 トリの喉のあたりがぐっぐっと動いたように見えたが、それもすぐに収まった。


「妖精さん、た、食べちゃった……。」

「うん。詠美ちゃん、これで大丈夫だよ。トリが元の世界に帰してあげるからね。」

「あ、ありがとう……。」


 詠美はちょっと引いている気がしたが、今更つっこむ気力はもう俺にはなかった。

 俺たちはトリがどこからか用意した光の扉の前に立った。

 トリが俺たちに言う。


「さ、ここから帰れるよ。」

「……ひとつだけ聞かせてくれ。ここはいったい何だったんだ?」

「ここはKACの狭間。お題に困った書き手たちが迷い込む場所……。」

「そ、それじゃ俺たち……、いや詠美は……。」

「……うん。」


 俺は思わず詠美を振り向いた。

 詠美がまた泣きそうな顔で俺を見返す。


「駆留……。ごめん、私、全部私のせいだって知ってたの……。私、書けなかったの……。明日、カクヨムの授賞発表があるなんて嘘。」

「な、なんで、そんな嘘を……。」

「だって駆留。明日、引っ越しでしょ? 駆留に心配かけたくなかったの……。最後は笑顔を見せたかったの……。だけど、駆留と離れたくないって私の気持ちがこんな世界を創りだしてしまったの……。」

「詠美……。」

「……ごめんなさい。」


 俺は詠美を抱きしめて言った。


「バカだな。離れたって、俺はすぐにまた会いに来る。呼ばれれば飛んでくる。詠美の小説だって、カクヨムでいつでも読めるんだろ? また新作書いてくれよ。楽しみにしてるからさ。」

「駆留……、ありがとう。」


 俺たちは離れていたって固い絆で結ばれている。

 書いて、読んで、そうやって未来に繋げていくんだ。

 俺たちにはそれができる。そう。カクヨムならね。

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