【コミカライズ】土下座したらいいよ?許さないけど~追放聖女、《聖域》猫カフェをひらく~

有沢真尋

第1話

 おそらく、交通事故だった。

 死ぬ直前のわたしは、横断歩道を渡りながらふっと夕暮れ時のビルを見上げ、ガラス窓越しに出されたカフェの看板の文字を読みながら思ったのだ。


(猫カフェ、そんなのもう「聖域サンクチュアリ」じゃない。行ってみたいなぁ……。でも、猫を働かせるのはなんだか申し訳ないから、心の底から楽しむのは無理かもしれない……。猫にサービスなんてさせてはいけないって罪悪感が)


 そこで、横からの派手な衝撃を受けて意識を失い、わたしの前世は終わっている。


 * * *


 聖女アルダは「聖女」に求められる能力が、著しく低かった。


 傷を受けた者を癒やす回復魔法、火炎や氷のブレスに対する防護魔法など、戦闘で必須とされる魔法の威力は駆け出しの神官とさして変わらない程度で、それだけ見るとまったくもって魔王討伐のメンバーにはふさわしくなかった。

 だが、アルダには世界中で歴史上誰ひとりとして発現したことのないユニークスキルがあった。

 その名も「猫化」である。

 

 魔法使いたちの使う魔法や、神官たちが使う神聖魔法には、通常「火炎爆弾アルティメット最終形態ファイアボム」や「広域ウルトラ回復ワイド魔法ヒーリング」などの一般的な呼称がある。しかし「猫化」に関しては、アルダ以外に誰も使い手がいないため、特別な名前はつけられず、ただ「猫化」とだけ呼ばれていた。


 世界中でひとりしか使わないということは、多くの者にとっては実際に目にすることがない、存在さえ不確かな魔法である。

 本当にそんな魔法が実在するのか?

 実際はもっと別の超強力な魔法で、それを隠すためにあえて「猫化」という無害そうな名で呼ばれているのではないか?

 憶測は憶測を呼び、尾ひれ背びれ尻びれがついて、世間における「猫化」への理解は「難易度も効力も最大レベルの浄化魔法なのだろう」となっており、ほとんど事実として信じられていた。


 なぜそのような噂が真実らしく語られることになったのかというと――聖女アルダはやり遂げたのである。

 魔王討伐を。


 唯一にして絶対の魔法である「猫化」によって。


 * * *


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る