全裸中年男性VSフェアリー・シャーク

惟風

ただの趣味

「フェアリー・シャークです。サメの妖精です」


 海辺の廃墟で全裸になっていると、突然目の前に現れた半透明のサメが牙を光らせ自己紹介をしてくれた。


「サメの幽霊とか生霊じゃなくて、妖精なんだ」


「常識的に考えてその部分で嘘つく必要性ってありますか、無いでしょ、そうやってくだらない疑問をぶつけられた時点で私は自身の言動や存在に対しての否定を貴方にされているんですよ、いつもそうだ、この歯で傷つけた人達のそれよりもその言葉の刃で切りつけられた私の傷の方がずっと深いし痛い」


「自己紹介は雑なのに性格はめちゃくちゃ繊細」


 あと、半透明で触れなさそうなのに普通に物理で人を傷つけられるんだ。怖い。


「で、そのフェアリーさんが俺に何用ですか」


「『フェアリー・シャーク』です略さずフルネームで呼んでいただきたいホント雑ですね貴方」


「マジで繊細さんめんどくせえ奴だなあ」


“フェアリー・シャーク”ってこいつの固有名詞なんだ。カテゴリとしては結局幽霊だったりして。またネチネチ言われそうだから口には出さないけど。


「用事なんてありません、とっととココから出てってください何を我が物顔で脱いでんですか」


「ここフェアリーシャークさんのテリトリーだったんですね。知らなかったとはいえ失礼しました、すぐに出ていきます」


「外に出る時はちゃんと服着た方が良いですよ、人間は全裸で公共の場所を歩いちゃいけないんでしょ、ハー面倒くさい種族!」


「(面倒くさい奴に面倒くさい種族って言われんの腹立つな)そうなんですよ、気は進みませんが何か着ます」


 立つ鳥跡を濁さずの精神で、清掃をしてから……と思ったものの「そんなん良いから早く出てけ」と追い立てられたので俺はそそくさと荷物を纏めてその場を後にした。種族が違うからなのか本人(本サメ?)の性格なのか、どこか感覚のズレた奴だった。

 抱えたボストンバッグがガチャガチャと重い音を立てる。


「……あ、忘れ物しちゃった」


 取りに帰るべきか一瞬迷ったけど、別に良いかと思い直した。またあのサメにブツブツと文句を言われてはたまらない。


 持ち帰り忘れた死体が後日誰かに発見されたところで、あのフェアリーシャークの仕業と思ってもらえるだろうし。

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