第33話 エピローグ

 小暑の夜。


 暖かい季節が終わり、蒸し暑さがスーツにまとわりつく。


 今は夏でも着られるスーツを着ている。それでもYシャツが汗で肌に張り付く。気持ち悪さを紛らわすため、ペットボトルの炭酸水を飲む。喉に清涼感が漂い、少しばかり涼しくなったような気がする。


 暑さを紛らわせるため、手で顔を扇いでみるが特に意味はない。


 周りも暑さにうんざりしているようで、春の活気さがなく、皆、疲労感を漂わせている。


 そんな中、桐生仁はネクタイを締め直す。


 相変わらず、懲りずに路上ライブをしている連中がいる。

 それを下らないとはもう仁は思わなくなった。


 瑠美菜もそうだった。最初は路上ライブから始め、今ではトップアイドル。

 人はどうなるかわからないものだなと仁は笑みをこぼす。


 これからも色んな顧客が現れるだろう。

 その度に、仁は苦悩する。


 それでも、俺は人のために奮闘する。


 そう自分に言い聞かせ、今日も仁は前を見て歩く。

前に、前に、ひたすら目の前の先を見るようにして歩いてゆく。



 人混みの中。


 真っ黒なスーツを身にまとい決意する男と、

 真っ白な髪をなびかせ、純粋に夢の輝きを求める男が、


 ――交差する。

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