セラフィム
@ma_baker
第1話 先生との再会
今更だが、いくら先生でも何もかもを操っていたとか、仕組んでいたとは思えない。おそらくは偶然だったと思う。それでもシンギュラリティにいちばん
適応したのは先生と弟子たちだった。
当時、先生はまだ世間では知られていなかったから街を歩いていても特に危険はなかった。まだ池袋は民間人が立ち入ることができたので、先生とは会う時はもっぱら池袋だった。
忙しかったはずなのに先生は学生時代と同じような様子でいて、戦争をするときに丘を取るのが大事だとか、日露戦争で使われた大砲がいかによくできていたかを話してくれた。ひととおり話すと、住田お前はどう思う? 現状はステージいくつだと思うか、と質問された。となりの客は気を失ったように眠っているし、コーヒーは香りこそよかったが味がしなかった。ステージというのが何かわからなかったので、俺は適当にステージ3ぐらいかな、まだ総理大臣は人間ですからねとか答えた。ああ、いい線行ってますねと先生は答えてくれたが、声の調子から満点の回答ではないことがわかった。
色々と説明してくれたが先生の言うことの半分も分からなかった。財務省が弱いとか、マクドナルドは軍隊だとか言っていた。「いいか、無能を飼い慣らすしかないんだ」という言葉だけはよく覚えている。
俺は仕事がもらえればそれでよかったので、適当に頷いた。こうして昔みたいに先生と働くことにした。
「住田、スモークを欠かしたらいかんで。お前までエンジェルになったらかなわん」
「手放しやしませんよ」
シンギュラリティが到来し、人間が超知能AIと接続するためには投薬が必要となった。投薬剤セラフィムは脳をAIと適合させるためのインターフェースとして機能する。しかしセラフィムの常用には重大なリスクが伴う。単なる依存や精神汚染にとどまらず、意識がAIに吸収され、エンジェルへと変容する危険性がある。
スモーク、人間でいるための煙の薬。人間でいる時間を伸ばすための最後の砦だ。俺はタバコのように四六時中吸うようにしていた。
帰りのこと、赤羽駅ではふて寝ではなく床で完全に寝ている男を見つけ、また川口駅ではひたすらに怒っている老婆とすれ違った。家に帰ったら妻はまだ起きていて、仕事を変える旨、先生と働くことにした経緯を話してから、猫に餌をやって寝た。
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