第35話:最後の発見


 夕闇が三角山を包み込み始めた頃、レインたちは最後の準備に余念がなかった。『星の門』を囲む祭壇の周りに、最終的な防衛ラインが形成されていた。マルコスと騎士たちは盆地の入り口を固め、ヴァルターと従者たちは高所に配置され、視界の届く限り周囲を監視していた。


 レインは祭壇の中央に座り、『創造の書』を再度開いていた。夕日の赤い光が、古代の文字を浮かび上がらせている。


「何か新しい発見はありましたか?」


 アイリスが隣に腰を下ろした。彼女は防護薬の最終確認を終え、レインに小さな瓶を手渡した。


「一つ気になる記述がある」


 レインは本のある部分を指差した。「封印儀式の最終段階について、これまで見落としていた重要な詳細だ」


「どのような?」


「『淵の影』は完全に破壊することはできない」彼は静かに言った。「儀式は封印するだけで、根本的な解決にはならないんだ」


 アイリスはその言葉に眉をひそめた。


「つまり、五百年後に同じ事が繰り返される?」


「そう」レインは頷いた。「しかし、この記述によれば、別の可能性もある。『永続的な解決法』が存在するというんだ」


 彼が指し示す文章には、『淵の影』の本質と、その永続的な封印について記されていた。しかし、その方法は複雑で危険なものに見えた。


「『選ばれし者の魂のパターンが淵の影の弱点となる』」


 アイリスが文章を声に出して読んだ。「これはどういう意味?」


「わからない」


 レインは頭を振った。「この部分の古代語は特に難解だ。『魂のパターン』という概念自体が理解しづらい」


 リーザが二人に近づいてきた。彼女は結界の最終確認を終えたところだった。


「何か問題?」


 レインは発見した記述を説明した。リーザは真剣な表情で文章を見つめた。


「これは……」


 彼女の目が大きく開いた。「プログラミングのような概念ね」


「プログラミング?」


「そう。『淵の影』はある種のパターンに従って動くエネルギー体。そして『選ばれし者』の魂も固有のパターンを持つ」


 リーザは興奮した様子で続けた。「もし『選ばれし者』のパターンを『淵の影』のシステムに組み込めれば、それは単なる封印以上のことができるかもしれない」


 レインはその考えに目を見開いた。それは前世の知識と絶妙に共鳴した。


「システムのハッキングのようなものか」


 彼は呟いた。「外部からのプログラム挿入で、『淵の影』の本質を変えるということか」


「理論上は可能かもしれない」


 リーザは慎重に言った。「しかし、それには『選ばれし者』が『淵の影』の核心部に直接アクセスする必要がある。それは肉体的には不可能なことよ」


「では、魂のレベルで」


 アイリスが理解した様子で言った。「エドガー王子の魂が『淵の影』に入り込むということ?」


「それは自殺行為だ」


 驚いた声に振り返ると、エドガー王子が立っていた。彼はすべての会話を聞いていたようだった。


「王子様」


 レインは立ち上がった。「これはまだ仮説に過ぎません。通常の封印儀式を行うつもりです」


「いや」


 エドガーは静かに、しかし確固たる声で言った。「もし永続的な解決法があるなら、それを無視するべきではない」


「しかし、危険が大きすぎます」


 アイリスが懸念を示した。「魂が『淵の影』に吸収されれば、二度と戻れないかもしれません」


 エドガーは厳粛な表情で頷いた。


「それでも、私には責任がある。五百年後、また同じ危機が訪れ、誰かが同じ選択を迫られるのなら、今ここで終わらせるべきだ」


 レインとリーザは顔を見合わせた。王子の決意は揺るがないようだった。


「少なくとも、その方法をもっと詳しく調べさせてください」


 レインは提案した。「まだ時間があります。儀式が始まるのは満月が昇ってからです」


 エドガーは同意し、彼らは『創造の書』のその部分をさらに詳しく調査し始めた。ハーマン館長も加わり、四人で古代語の解読に集中した。


 ***


 祭壇から少し離れたところで、ソフィア王女とケインが話していた。


「本当に成功すると思いますか?」


 彼女の声には心配が滲んでいた。ケインは山の向こうに沈みゆく太陽を見つめながら答えた。


「成功させねばならない。それだけだ」


 彼の表情には複雑なものがあった。長い歴史の中で、彼の家系は幾度となく王家と共に『淵の影』に立ち向かってきた。今夜もその伝統の続きだった。


「私の兄は……」


 ソフィアは言葉を詰まらせた。


「死なないでしょうね?」


「最善を尽くす」


 ケインは正直に答えた。「儀式自体に危険はある。しかし、三人で力を分散すれば、一人あたりの負担は大幅に減るはずだ」


 彼はソフィアの肩に手を置いた。


「王女様、あなたの役割も重要です。結界の維持と、儀式後の三人のケアを頼みます」


 ソフィアは決意を新たにしたように頷いた。


「必ず役目を果たします」


 ***


 日が完全に沈み、空が暗紫色に染まる頃、マルコスが急いで祭壇に戻ってきた。


「レイン殿、動きがあります」


 彼の表情は緊張に満ちていた。


「東側から複数の人影が接近中です。約二十名、おそらくダーシー伯爵の手下たちでしょう」


「正面からの攻撃か」


 レインは眉をひそめた。「予想通りではあるが、それでも警戒が必要だ」


「ヴァルターの情報によれば、彼らは一般的な戦力だ」


 マルコスは続けた。「しかし、その後ろにアラン・ダーシーの姿もある。彼は『淵の使い』を率いているようだ」


「時間稼ぎをしなければ」


 レインは決断した。「儀式の準備を急ぎましょう」


 全員が緊張感を高め、それぞれの持ち場に戻った。リーザとアイリスは結界の強化を始め、マルコスは騎士たちと共に防衛ラインを固めた。


 レインはエドガーとケインを呼び、祭壇の中央に集めた。


「時間が限られています。『創造の書』の新たな解読結果をお伝えします」


 彼は発見した永続的な封印方法について簡潔に説明した。三人の『創造者の血』が持つ魂のパターンを結合させれば、『淵の影』のシステムに干渉できる可能性があること。しかし、それには三人全員が意識を『淵の影』の核心部まで送り込む必要があること。


「危険なことは明らかだ」


 ケインが言った。「肉体は無防備になり、魂が戻れない可能性もある」


「しかし、成功すれば永続的な解決になる」


 エドガーは冷静に言った。「五百年後の危機を防ぐことができる」


「どうするか決めなければなりません」


 レインはまっすぐ二人の目を見た。「永続的な方法を試みるか、それとも通常の封印を行うか」


「私は永続的な方法に賭けたい」


 エドガーが即答した。「それが王としての責任だ」


 ケインも深く考えた末、頷いた。


「私も同意する。先祖から受け継いだ使命を全うするためにも」


 レインも決意した。


「では、永続的封印を試みましょう。ただし、儀式の基本構造は変えません。万が一失敗した場合は、通常の封印に戻ります」


 三人は固く手を握り合い、決意を確認した。


「ただ一つ問題が」


 レインは『創造の書』を再び開いた。「永続的封印のためには、『淵の影』の核心部に到達する方法が必要です。それには『創造者の遺物』と呼ばれるものが役立つとあるのですが……」


「これか?」


 エドガーは懐から小さな結晶を取り出した。それはレインの真理の結晶とよく似ていたが、より大きく、内部に星のような光が渦巻いていた。


「それは?」


「父上から受け継いだもの」


 エドガーは説明した。「代々王家に伝わる宝物で、『星の欠片』と呼ばれている。『創造者』に由来すると言われてきた」


 レインは驚きの表情を浮かべた。


「それは間違いなく『創造者の遺物』です。『創造の書』の記述と一致しています」


「使い方は?」


「儀式の最中、三人で同時に触れれば、魂を『淵の影』の核心部に導くことができるはずです」


 レインは慎重に言った。「その後は我々の意識と『淵の影』の直接対決になります」


 三人は最後の準備を整え始めた。レインはアイリスとリーザを呼び、計画の変更を伝えた。二人は心配しながらも、必要な調整を行うことに同意した。


 ***


 夜空に満月が徐々に昇り始めた頃、盆地の入り口で小さな戦闘が始まっていた。マルコスの報告通り、ダーシー家の手下たちが前線を形成し、アラン・ダーシーは後方で『淵の使い』を率いていた。


「彼らは時間稼ぎをしている」


 ヴァルターがレインに報告した。「満月が頂点に達するまで、儀式を妨害しようとしているのだろう」


「こちらも時間稼ぎで対応するしかない」


 レインは答えた。「マルコスたちにはできるだけ長く持ちこたえてもらおう」


 戦闘の音が徐々に大きくなる中、エドガーはソフィアに近づき、最後の言葉を交わした。


「姉上、もし私が戻れなかったら」


「そんなことを言わないで」


 ソフィアは彼の言葉を遮った。「あなたは必ず戻ってくる」


「もちろん」


 エドガーは微笑んだ。「しかし、用心のために。もし何かあれば、父上を支え、王国の平和を守ってほしい」


 ソフィアは涙を堪えながら頷いた。


「約束するわ。だからこそ、必ず戻ってきてね」


 エドガーは妹を抱きしめ、静かに別れを告げた。


 レインもアイリスと最後の言葉を交わしていた。


「どうか無事で」


 彼女は彼の手を強く握った。


「君と出会えて本当に良かった」


 レインは真摯に言った。「転生してこの世界に来た意味が、やっとわかった気がする」


「賢者の商会を始めた時から、あなたはこの瞬間に向かって歩んでいたのね」


 アイリスの目には涙が光っていた。


「儀式が成功したら、一緒にバレンフォードに戻ろう」


 レインは彼女の頬に触れた。「皆が待っている」


 アイリスは頷き、勇気を奮い立たせるように深呼吸した。


「準備を整えるわ。結界は万全の状態にしておくから」


 ***


 満月がほぼ天頂に達した頃、マルコスが祭壇に戻ってきた。彼の鎧には戦いの跡があったが、大きな怪我はなさそうだった。


「彼らが本格的に攻めてきました」


 彼は状況を報告した。「騎士たちは持ちこたえていますが、『淵の使い』が増えています。普通の武器では効果がありません」


「時間は?」


「あと十五分ほどで満月は最高点に達します」


「では、急ごう」


 レインはエドガーとケインに頷き、三人は祭壇の上に立った。


 祭壇の中央には、四大元素の結晶が星形に配置されていた。レインが風、エドガーが火、ケインが水の位置に立ち、土の位置は空けたままだった。


「私から始めます」


 レインは『創造の書』から儀式の言葉を唱え始めた。古代語の音節が夜空に響き、祭壇の表面が淡く光り始めた。


 続いてケインが水の呪文を唱え、最後にエドガーが火の言葉を発した。三人の声が重なり合い、祭壇の光はさらに強くなった。


「土の力よ、我らの呼びかけに応えよ」


 三人が同時に唱えると、空いていた土の位置から褐色の光が立ち上がった。四元素の力が結合し、祭壇の中央に光の柱が形成され始めた。


 その時、盆地の入り口から大きな騒音が聞こえた。ダーシー家の手下たちが防衛線を突破し、『淵の使い』が結界に迫っていた。アラン・ダーシーはその先頭に立ち、両手を掲げて何かの呪文を唱えていた。


「結界が持ちません!」


 リーザが叫んだ。彼女とアイリスは結界の維持に全力を注いでいたが、『淵の使い』の攻撃はあまりにも強力だった。


「儀式を急いで!」


 マルコスが叫び、再び入り口に向かって走った。彼と残りの騎士たち、そしてヴァルターと従者たちは最後の防衛線を形成していた。


 レイン、エドガー、ケインの三人は儀式を続けた。祭壇の光はますます強くなり、空に向かって伸びていった。満月の光がその柱に反射し、周囲を昼のように明るく照らしていた。


「次の段階へ」


 レインは声を上げた。エドガーは『星の欠片』を取り出し、三人の間に置いた。結晶は儀式の力に反応し、内部の光が激しく脈動し始めた。


「一度に触れる」


 三人は同時に結晶に手を伸ばした。接触した瞬間、強烈な光が爆発し、三人の意識は肉体から引き離されたように感じた。


 ***


 レインは奇妙な空間に立っていた。周囲は星々が浮かぶ宇宙のようでありながら、地面のようなものの上に立っている。エドガーとケインも同じ空間にいた。


「成功したようだ」


 ケインが周囲を見回した。「これが『淵の影』の核心部?」


「いや、まだ入り口に過ぎない」


 エドガーが言った。彼の声は普段より確信に満ちていた。「さらに深く進まなければならない」


 三人は光の道を歩き始めた。進むにつれ、周囲の景色は変化していった。美しい星空から、徐々に闇が増していき、やがて黒い渦のようなものが見えてきた。


「あれが『淵の影』の本体だ」


 レインは確信を持って言った。「我々の魂のパターンを組み込まなければならない」


「どうやって?」


「意識を集中させて」エドガーが答えた。「我々三人の存在を一つに結合させる必要がある」


 三人は手を取り合い、互いの意識を感じ始めた。レインの前世の記憶、ケインの家系に伝わる使命感、エドガーの王としての責任。それらが混ざり合い、一つの強力な意識となっていった。


「あれは!」


 黒い渦の中から、人型の存在が現れた。それは完全な漆黒でありながら、内部に無数の光の点が瞬いていた。


「『淵の影』の意識体だ」


 エドガーが言った。「話しかけてみよう」


 しかし、その前に黒い存在が先に口を開いた。その声は三人の心に直接響いた。


「よく来たな、創造者の末裔たちよ」


 声には不思議な親しみがあった。まるで古くからの知人と話しているかのようだった。


「我々はお前を封印するために来た」


 エドガーが毅然と言った。「二度とこの世界を脅かさないように」


 黒い存在は波打つように揺れた。


「封印? それが本当にこの世界のためになると思うのか?」


「『淵の影』は混沌をもたらす」


 ケインが言った。「それは破壊以外の何ものでもない」


「誤解だ」


 存在は反論した。「私は混沌ではなく、変化をもたらす者。停滞した秩序を打ち破り、新たな可能性を開く者だ」


 レインは冷静に観察していた。この存在は単純な悪ではないようだった。しかし、その「変化」は世界の安定を犠牲にするものだ。


「あなたの存在自体が、この世界の法則と相容れない」


 レインが言った。「だからこそ、創造者たちはあなたを封印したのだ」


「創造者たち」存在は憤りを含んだ声で言った。「彼らは逃げ出した臆病者だ。自分たちの世界を私によって失った後、この世界に逃げ込み、私を排除しようとした」


「それが真実だとしても」


 エドガーは揺るがなかった。「今のこの世界には、あなたの力は強すぎる。人々の生活が破壊されてしまう」


 三人は意識をさらに強く結合させ、『淵の影』に向かって前進した。黒い存在は後退するかに見えたが、突然、三人の周りを取り囲むように広がった。


「お前たちの勇気は称えよう」


 存在は言った。「しかし、封印は一時的なものでしかない。私は永遠に存在し続ける」


「永遠ではない」


 レインが言った。「我々は永続的な解決策を見つけた」


 彼は自分の魂の中に眠る前世の知識、プログラミングの概念を呼び起こした。エドガーとケインの魂のパターンと組み合わせ、彼はある種のコードを形成し始めた。


「私たちのパターンをあなたのシステムに統合する」


 レインは説明した。「あなたの力を完全に否定するのではなく、この世界と調和させるように」


 存在は興味を示したようだった。


「それが可能だとでも?」


「試してみよう」


 三人は意識を一点に集中させた。レインの前世の知識、エドガーの王としての責任感、ケインの守護者としての使命感。三つの魂のパターンが融合し、新たなコードを形成していった。


 黒い存在は抵抗するかに見えたが、徐々に三人のパターンを受け入れ始めた。その姿は変化し、純粋な黒から、星空のような模様を持つ存在へと変わっていった。


「これは……」


 存在は驚きの声を上げた。「私の本質が変わっていく」


「破壊ではなく創造へ」


 エドガーが言った。「混沌ではなく調和へ」


「停滞ではなく成長へ」


 ケインが付け加えた。


 変化は続き、やがて存在は完全に姿を変えた。それはもはや『淵の影』ではなく、星々を内包する光の存在となっていた。


「理解した」


 新たな存在が言った。「私の目的は破壊ではなく、世界の進化を助けることだったのだ」


 三人は成功を実感した。『淵の影』は永続的に変化し、もはや世界への脅威ではなくなったのだ。


「しかし、代償がある」


 存在は続けた。「あなたたちの魂のパターンの一部は、永遠に私の中に残ることになる」


「それが我々の使命だ」


 エドガーは受け入れた。「我々の一部があなたの中で生き続け、永遠に調和を保つ」


「では、さようなら、創造者の末裔たちよ」


 存在は最後に言った。「あなたたちの勇気と知恵は、永遠に記憶されるだろう」


 光が爆発的に広がり、三人の意識は急速に元の世界へと引き戻されていった。


 ***


 祭壇の上で、レイン、エドガー、ケインの三人の体が突然光に包まれた。その光は祭壇全体に広がり、やがて空に向かって巨大な光の柱となった。


 アイリスとリーザは結界の維持を続けながら、その光景を見守っていた。ソフィアは祈るように手を胸に当て、三人の無事を願っていた。


 盆地の入り口では、戦闘が突然停止した。『淵の使い』たちが光に反応して動きを止め、やがて黒い霧のように消え始めたのだ。アラン・ダーシーは混乱した表情で、自分の手から力が失われていくのを見ていた。


「何が起きている?」彼は震える声で叫んだ。


 マルコスとヴァルターは戦いを中断し、祭壇からの光を見上げていた。


「成功したようだ」ヴァルターが呟いた。


 天頂の満月が光の柱と共鳴するように明るく輝き、その光はアルカディア全土に広がっていった。幻想的な美しさと共に、世界から何かが抜け落ちていくような、奇妙な解放感があった。


 光が徐々に弱まり、三人の姿が再び見えるようになった。彼らは祭壇の上に横たわり、静かに横たわっていた。


「エドガー!」


 ソフィアが駆け寄った。アイリスとリーザもすぐに三人の元へと向かった。


「生きています」


 アイリスが確認した。「ただ、深い眠りについているようです」


 マルコスとヴァルターも祭壇に戻ってきた。入り口では、ダーシー家の手下たちが混乱し、多くは既に逃走していた。アラン・ダーシー自身も力を失い、膝をついていた。


「本当に終わったのか?」


 マルコスが問いかけた。


「はい」


 リーザが頷いた。「『淵の影』の気配が完全に消えました。彼らは何か根本的なことを成し遂げたようです」


 ソフィアはエドガーの手を握り、その温かさに安堵の息をついた。


「兄上、約束通り戻ってきたのね」


 アイリスはレインの側に座り、その額に手を当てた。


「何が起きたのかしら」


「それは彼らが目覚めた時に教えてくれるでしょう」


 リーザが言った。「今は休ませてあげましょう」


 満月はまだ空高く輝き、その光は変わってしまった世界を静かに照らしていた。五百年続いた脅威は、今夜永遠に終わりを告げたのだ。


(第三十五話 終)

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