第6話 商品

死にたくないと自覚してから次に目が覚めた時には引きづられていた。


薄暗いところにも慣れてきたのか、暗いところなのによく見える。


ボクを引きづっている男の前には、ボクたちのように手錠だけではなく、首にも足にも枷をはめられた人たちが男の先を歩いていた。




「おい、目が覚めたのなら自分で歩け」




足蹴にされ力なく倒れ込んでしまう。




「早く行け」




腹を蹴り上げられ無理やり立たされる。




「おぇ……」




胃液が喉から這い上がり、地面に溢れる。




「ちっ!汚ねぇな!!」




また蹴られる。


自分で歩けず、男のボールになりながら明るい場所へと出たようだ。




ボールとしての役目は終わったようで、男は引きづっていた少年をボクの横に置いて暗闇の中へと戻っていった。


上体を起こすと眩い人工的な光が右目に降り注ぐ。




「それでは左から始めます!まずはご紹介から!」




何やら大きな音が聞こえる。


頭が正常に動いていないせいか上手く聞き取れない。




……ああ、そうか。




”今から売られるんだ”




と、理解するのは難しいことではなかった。


項垂れたままの少年と今にも死にそうなボク。




臓器とか、取られてポイッ……だろうな。


ボクから一番離れたところにいる人に値段のようなものがつけられる。


段々とボクたちの番が近づいてくる。




これでボクも少年も……最後か。


そう思うと少年を抱きしめたくなった。


少年に腕を伸ばすが、腕が言うことを聞かない。


そのまま少年の上に覆い被さってしまう。




ああ、疲れたなぁ……。


掠れた少年の息遣いが聞こえる。


まだ、生きててくれたんだね……お休み。








昨日見た時と比べものにならなかった。


数時間前まではあったはずの耳と目がなくなっていた。


まともに治療もされていない。


いや、治療すらされていないのだろう。




会場への登場の仕方も二人だけ異常だった。


年上の子は石蹴りのように蹴られ、年下の子は手錠を引きづられてきた。


年上であろう子供は辛うじて意識は残っているようだが、すでに死体のようだ。


もう一人の子供は意識すら失っているようで、今にも死にそうだ。




「それでは左から始めます!まずはご紹介から!」




司会が拡張魔法を使い、会場の端まで届くように話し出した。




「こちらの商品は二〇歳はすぎており、年をとっていますが多少の医療行為ができます!ただし魔法ではございません!魔力なしでございます!まずは金貨五枚からです!」




『五』


『五、五』


『六』




医者の卵の価格が上がっていく。


子供たちは何も感じていないのか反応がない。




「最終落札価格は金貨十二枚です!続きましてこちらはーーー」


司会が次々と商品を説明しては私たちの誰かが購入していく。


「次だ、準備はいいか?」


「ええ、もちろんよ」




私たちが値札を構えると年上の子が年下の子に雪崩れ込むように倒れた。




「ん?ええーと、今からこちらの商品のご紹介の予定でしたが、この二体はもうすでにダメなようですね……死体として売買いたします!」


「そんなっ!?」


「いや、諦めるのはまだ早いぞ」


「ええ、ええ、そうね」




司会の男が声をあげる。




「一体ずつのご提供の予定でしたが、変更いたします!二体の子供の死体です!!海賊たちが仕入れ、本日こちらに引き渡されました!二体セットで銀貨三枚からです!」




『三』


『八』


『十七』




「やるわ」


「ああ、頼む」


『金貨十』


「ああっと!?珍しい!死体で金貨がつきました!金貨十枚です!……他の方はいらっしゃいませんか?……落札です!まさかの死体に金貨十枚がつきました!!」




会場が沸いて、視線が私たちに傾く。




「一安心……していいのかしら」


「まだ早いじゃろう、すぐに医者の手配をしなければ」




全ての商品が売られ、私たちは会場の一室に向かった。




「本日は商品のお買い上げ、ありがとうございます」


「建前はいい、商品を一刻も早く渡してもらおう」


「では先に、金貨をお支払いください」


「これよ、確認してちょうだい」


「さっきの男もだけれども、子供たちを先に連れてきて」


「確かに確認いたしました、死体を……先にですか?」


「ええ」


「承知いたしました、少々お待ちください」




数分もしないうちに子供たちが引きづられてきた。




「それはもうわしらのものだ、丁寧に扱ってはくれんかね?」


「ははっ!失礼いたしました!」




会場で見た時は意識があった子も気を失っている。


なんて酷い状態なのだろうか。


本当に死体と言っても過言ではない。




「男の方もすぐに連れてきなさい」


「承知いたしました!」




また、数分もしないうちに男は現れた。




「あの……あなた方がおれ……私の主人でしょうか?」




男は横たわる子供たちを見て、息を飲む。




「ええ、そうよ、あなた医療行為ができる……というのは嘘ではないでしょうね?」


「は、はい……あまり専門的なことは分かりませんが……」


「今すぐ、この子たちの治療を」


「えっ?」




男は呆けてこちらを見ている。




「何をしているの?早くしなさい、それとも器具がたりないのかしら?」


「え、あ、はい……」




男は幼い子から診て、二人を見終わると声を出す。




「発言の許可をください……」


「許す」


「二人ともとても深刻な状態です、特にこの小さい子の方は今にも死にそうです」


「それで?」


「いますぐに衛生が整っている場所に運び、点滴を行うべきです」


「……あなた、気に入ったわ、先に私たちの屋敷に向かいなさい、使えるものは何でも使っていいわ、迎えのものもいるわ」


「は、はい……」


「この子たちが死んだらあなたも命はないわ、いいわね?さあ向かいなさい」


「は、はい!」




男は急いで場を離れた。




「じいさん」


「わかっとるよ」




私たちは幼い子供たちを背にかかえる。




「お、お客様!?一体何を!?」


「お前たちにはもう関係ないじゃろう?」


「はっ!失礼いたしました!」


「軽いわね」


「ああ、とっても軽い」




私たちは急いで馬車へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る