第2話 トイレ掃除と実食
歩くこと数分。ボクは目にたくさんの涙を浮かべたままだった。前を歩く男が止まる。
「今日はここだ、道具はここだ」
それだけを言い残して男は消えた。そこは悍ましさを感じるほど汚れまくった便所らしきものだった。少年は道具があると言われた場所に行く。ボクも少年について道具を見てみる。
これ、ボロボロの布切れが何枚かと……酷く錆びたバケツがひとつだけ……。
汚れ切った”ドウグ”を少年はつかみ、便器のような木で作られた何かをゴシゴシとこするボクは意を決して布切れを右手につかむ。ホコリまみれで掴んだ途端に手が真っ黒になる。
「ひぃっ……」
左手でバケツを持つ。だが、水をいれるような場所がみつからない。
「ねぇ、水ってどこで入れたらいいか知ってる?」
少年に問いかけると、彼はおもむろに歩き出し少し歩いたところで止まる。そしてしゃがんで床を引き上げた。
「あ、そっか、船だから海水を使うんだ」
少年が床を引き上げてくれている間にボクはバケツに海水を入れる。ボクがバケツを床に置くと少年は床を元に戻した。
「ありがとう」
ボクがお礼を言うと少年は再び掃除に戻った。
下手に動くと海に落ちるんだ……。
あれ?でも海にいけるなら逃げられる?
そんなことを考えていると大きな足音が聞こえてきた。
そ、掃除してるフリしなきゃ……。
慌てて汚れている壁を磨き出す。足音は止まったようだ。
「おい、まだこいつをくれてなかったな」
先ほどの男で手には足枷のようなものをもっていた。
ボクが何かを言う間もなく男はボクを地面に叩きつける。
「あぐっ……」
そのまま背中を踏みつけられる。その隙ボクの足には枷がついていた。
「これでいいな、おいお前、全く進んでないな?お仕置きだ」
男はボクの背を何度も踏みつける。
「おふっ……い、いたい!」
「うるせぇ!口答えするんじゃねぇ!!」
ボクの懇願は全く届かず、男は何度もボクを踏みつける。
やがて気が済んだのか、足をおろす。
いたい……いたいよ。
もっと踏まれると思いなんとか声を出さないように堪えた。
「おい、お前も連帯責任だ!」
男は少年を蹴り飛ばす。
バキッ!っと、少年がぶつかった壁が壊れ、少年はうめき声をあげる。
”やめて”
恐怖でその一言が口に出せない。男はそのまま立ち去った。恐怖と痛みで立ち上がることすらしたくない。だが、蹴り上げられた少年を見捨てることはできなかった。
ずるずると汚物で汚れ切った床を進み、少年の元へと辿り着く。少年は檻にいた時よりも虚で光を通さない目にボクを写す。
「……ごめん、ね」
声を出すと背中が酷く痛み、うまく話せない。少年はふらつきながら立ち上がり、布切れを手に持って床を擦り出す。ボクは涙が止まらなかった。これ以上泣いても意味がないことは理解している。それでも泣かずにはいられなかった。
それから何時間ほどこの場を磨いただろうか。
数十分に一度ほどの感覚で、先ほどの男や初めてみる男たちが何度もやってきてはいちゃもんをつけボクたちを殴り、蹴り、踏みつけていった。
『掃除が遅い』
『お前たちのやり方が悪くて汚れた』
『同じ空気を吸ったせいで肺がやられた』
そんなことばかりを繰り返し言われては暴力を振るわれ、床を、便器を、壁を磨く。
足音だ。また殴られる。そう思っていると意外な言葉が飛んでくる。
「今日は終わりだこっちにこい」
何度かボクたちを殴りまくった男だった。急いでドウグを片付け、男の後についていく。
何されるの……。
いよいよ殺されるのかもしれない。たった一日でそう思わせてくれるくらいには”タクサン”のことをされた。なんだか見覚えのある道だ。
もしかして檻に戻される……?
あのグニュっとした物体を踏んだ部屋の前を通り過ぎて檻のある部屋に戻される。
「入れ」
ここにきた時のボクなら入らずにいただろうが、今のボクにはそんなこと悍ましいことは考えられない。少年とボクは抵抗することなく檻の中に入る。男は暗い部屋にボクたちを置いて出ていった。
疲れた。
もう何も考えたくない。ボクはそのまま気絶するように眠りについた。
猛烈な痛みで目を覚ます。呼吸ができない。
また蹴られた……!
咳をこぼしながら呼吸を整えていると、横ではすでに殴られた様子の少年が佇んでいた。ボクたちを蹴り上げた男は檻の中に何かを置いて部屋から出ていった。
置かれた物をみると”食事”とは言い難いほど傷んだスープだった。野菜らしきものからはカビのような緑がかった白いものが沈殿し、スープ自体は液体ではなくドロっとした物質へと変化している。
昨日より酷いことは起きないと思っていたが、この”食事”に手をつけることは阻まれた。少年はおくびにも出さずに手をつけて、口に押し込んでいる。とてもお腹が空いている。だが、これは食べ物ではない。
ボクはどうしても食べることができずにいるとまた男がやってきて、ボクたちに昨日と同じことをさせた。
体の至る所が痛い。激痛を堪えて磨いていても、容赦無く男たちはボクたちをサンドバックにする。終わりを告げられると、いきなりバケツに海水をくんでいた海に落とされる。
「かはっ……な……に……?」
浮かんで顔を出してもすぐに海に戻される。
息ができない!!
もうダメだと思ったところでボクは船内に引き上げられた。
「げほっ、ごほ、うぇえ……」
ボクは飲み込んだ海水を吐き出しながら息を整える。すると今度は少年が同じことをされていた。
「あ、うぅ……」
少年はうめき声をあげ、やがてボクと同じように引き上げられる。
「これで少しはマシになっただろう」
もしかして、水浴びでもさせてつもりでいるんじゃ……
「匂いをマシになったな」
すでにボクは恐怖で何も言えなくなっていた。これ以上酷いことは起きないと信じたかった。それから数日間、毎日同じことをさせられ、食事という名のエサにも慣れてしまった。何度も吐いては食べを繰り返しているうちに体も慣れてしまったようだ。
「おえぇ……うぇえ……」
気持ち悪い。
何度も胃液を吐き出した。すでに食べた物を吐くということが当たり前になっていた。風呂という名で二日に一度ほどの頻度で海に溺れさせられることにも慣れてしまった。
次の日便所掃除は終わったようでキッチンの掃除をしろ、とキッチンに連れていかされた。キッチンの男たちは今までの男たちとは違い、殴る蹴るといった暴力は奮って来ない。だが、ある意味では最も嫌だったかもしれない。
常に飢えで死にかけているボクと少年の前に残飯らしき物を置いて、その上に男たちは自分の糞尿をかけた。この物体をボクたちに食べろと言いつける。身も心も恐怖で染まり、何も感じないと思っていたが、まだボクには嫌だと思うことができたようだ。
どうせなら少年みたいに何も感じずに食べられたらよかったのに。
少年はいつもの食事と同じように口に押し詰める。ボクも心とは裏腹に体は恐怖からか口に運んでいた。そんなボクたちの様子を男たちはみて下卑た笑みを浮かべて、ボクたちに尿をかけては大笑いしている。
目は涙で守られたが、他の部分は男たちの尿でずぶ濡れになったボクたちを畳み掛けるようにおとこたちは笑う。
目には涙、耳には嫌な笑い声、口の中はとても言葉では表現できないほど不快だった
もうボクは何も感じなくなっていた。
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