第161話 紅蓮の翼・新人面接ナウ その4

 試合開始から30秒。

 さっきまでの接近戦一辺倒とは一転、スタートから中距離での攻防が続く。


 カムイは波動の弾やブレードチェーンで猛攻を仕掛け、ライトウィングも全開で動かす。あらゆる手を使って防御に隙を作ろうとするがツバサはそれを許さない。アイギスで全ての行動を制し、カムイに暴れさせない。


 さすがのカムイも苦い顔をする。


「硬いな……!」


 カムイがスラスター回復のため足を止めると同時にアイギスの砲撃が飛んでくる。カムイは飛んで躱すが、3枚のアイギスによる突進を喰らい、全身の耐久値を削られる。

 しかしカムイもやられっぱなしではない。

 攻撃を喰らいながらもアイギス1枚を右手で掴み、波動で破壊する。


「ふむ」


 カムイは着地し、構えを解く。 

 距離は40m。まだまだ遠い。


「生半可な攻めでは……否、全身全霊の攻めでも崩せんな」

「ギブアップはいつでも受け付けるよ」

「愚か者。たとえこの身果てようとも、勝負の場からは逃げん」


 カムイの右手に、強い波動が充填されていく。


「ロゼッタからは止められていたが、封を解くしかあるまい」


 ツバサは初めて見る挙動を前に、大きく後退して距離を作った。


「高出力モード……?」

「似たようなものだ。征拳の出力の制限を切り、自身へのダメージを無視して波動を射出する」


 危険を察知したツバサはカムイの正面から逃げる。 

 カムイは両翼を展開し、宙に浮き、右手から破壊の渦を射出する。


波動焼却砲ブラストエンド


 カムイはライトウィングをフル回転させ、ブラストエンドの衝撃で自身が吹っ飛ばないようにし、右手の平から超巨大な波動レーザーを射出し続ける。


 ツバサは避けきれず、アイギス5枚で波動の渦を受ける。波動の中心からは逃れているのに、それでもアイギス5枚の内3枚が焼却された。ブラストエンドのあまりの威力にクレナイとレンも目を見開く。


「やるねぇ……!」


 ツバサはにやける。

 カムイの右手は技の衝撃で黒焦げになる。手としては使えるが、波動は使用不可になった。左手はまだ万全だ。


 カムイはこのチャンスを見逃さず、すぐにライトウィングを使って接近する。

 ツバサのアイギスは残り2枚。牽制し切るのは不可能。

 ツバサはアイギスを右手と左手に1枚ずつ持ち、盾の先端よりレーザーサーベルを展開。カムイを待ち構える。


(接近戦では負けん!!!)


 カムイは波動を左手より展開し、ツバサの元へ飛び込む。

 ツバサは波動を展開するカムイの左手を右手のアイギスで受け、手首を返し、衝撃全てを外側に逸らした。


「――――」


 カムイは動揺し、一瞬思考を空白に染めた。

 なぜなら今の受け流しの技は、先ほど自分がやったものと同じ――


「良い技だねコレ。貰うよ」


 ツバサは左手のアイギスでカムイの腰を両断する。

 カムイは上半身だけになってもスラスターで姿勢制御し、左手を出そうとする。ツバサはカムイの動きを読み、シールドピースでカムイの左手を囲んで波動を封殺。その後で右手のアイギスで脳天から首までを斬り裂く。カムイは限界を迎え、無数のポリゴンになって散った。


 カムイvsツバサ、勝者ツバサ。


 カムイとツバサは互いの体を修復させる。


「……真似が上手い者が多いな。このゲームは」

「受け流しはガードナーの分野だから真似できただけだよ」


 カムイはツバサに背を向ける。


「奥の手まで出して敗北したのだ。言い訳の一切無し。邪魔をしたな」


 闘技場を去ろうとするカムイ。しかし、


「キミが入るなら……チーム名は紅蓮の神翼しんよくに改めようか。クレナイ、レン、カムイ、ツバサだからね」


 カムイは足を止め、振り返る。


「ツバサ、貴様……」

「その波動の武器、思ってたより射程もあるみたいだし? ギリギリ合格でもいいかな~ってね」


 ツバサは観客席にいるクレナイとレンを見る。2人は頷き、肯定の意を示した。


「ようこそ紅蓮の神翼へ。言っとくけど、チーム練習にはしっかり参加してもらうからね?」

「っふ。いいだろう。しかし気を付けろよ。隙があればいつでもエースの座を奪い取ってやる」


 神灰翼と神堂カムイ。

 このコンビが“双璧”と呼ばれ、恐れられるのはまだ先の話。



 --- 



 某テレビ局の楽屋。

 ソファーの上に、ヘッドギアを装備したツインテールの少女が寝転がっていた。


「……ギリギリセーフ、かな」


 そう言って少女――ツバサはヘッドギアを外す。

 瞬きを数度行い、ゲーム酔いを直して視界を明瞭にする。すると、


「なにをしてるのかな~?」

「あ」


 翼はスカートの中を覗き込んでいる少女――百桜千尋の頭に踵落としを叩き込む。


「あいたーっ! なにするのさ翼ちゃん!」

「痴漢撲滅キックだよ」

「痴漢なんて濡れ衣だよ! 私は翼ちゃんに無防備に仮想空間に入る危険性を説こうとだね……!」

「説こうと?」

「スカートの中に顔を突っ込――」


 再び翼の踵落としが脳天に炸裂する。


「もうリハーサル始まる?」

「あと10分だよ。移動しよ」


 翼と千尋は2人で30分のバラエティ番組をやっている。ネット配信のみの小規模のものだ。基本は2人&ゲスト数人でトークを繰り広げる普通のトーク番組なのだが、大抵千尋が暴走し翼が沈静化させる流れになる。


「あ~、まったくなんでキミとコンビを組まされるかな~。キミと組むと翼がツッコミになるから嫌なんだよねぇ」

「今をときめく女優とアイドル! 当然の巡り合わせだよ。ドラマでも共演したしね~」


 翼は早く番組が打ち切りになればいいと思っているが、絶妙な掛け合いが人気を博し再生回数が伸びているため、終わる気配はない。


「今日のゲスト誰だっけ?」

「台本目を通してないの? んもうっ! しょうがないな~。今日のゲストは女子ゲーマーの神堂カムイ選手だよ」

「げっ」


 翼はカムイの姿を頭に浮かべる。


(嘘でしょ。あんなのと30分とまともに会話できると思えない……)


 スタジオに入る。

 すでにゲストはセットのソファーに座っていた。


 黒のロングヘアーは変わらないが、服装は白のワンピースで、ニッコリとした笑顔を浮かべている。雰囲気は――これ以上無いほどにお淑やかだ。ザ・お嬢様といった感じである。


「「え。え!?」」


 翼と千尋はついゲストを指さしてしまう。

 両者共にインフェニティ・スペース内でのあの漢気溢れるカムイの姿を見ているため、目の前の少女がカムイだと信じられないのだ。


「ごきげんよう。翼さん、千尋さん。今日はよろしくお願いします」

「は? 誰?」

「……神堂カムイちゃん……のはず。ほら、名札にそう書いてあるよ」


 カムイは翼に近づき、


「先ほどはゲーム内でお世話になりました」

「あ……うん。いや、はい……?」

「そのぉ……私、バラエティは不慣れでして……も、もし、変なことしちゃったらすみません」


 上目遣いで、頬をピンクにするカムイ。


「えっとぉ……キミ、ホントにあの神堂カムイと同一人物? あの格ゲーマーで、さっき翼と戦った神堂カムイで合ってる?」

「ええ、そうですよ?」


 カムイはハッとしたような顔をし、


「もしかして、ギャップを感じているんですか?」

「そりゃそうでしょ……」

「あっはは……私、仮想空間に入るとちょっとだけ性格が変わっちゃうんですよね。えへへ」


 翼と千尋は声を重ねる。


「「ちょっとじゃないって!!」」


 今日の翼はいつものキレが無く、珍しく収録後にマネージャーに怒られたのだった。

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